実現したいこと・解決したい課題

豪雨災害を経験した熊本県人吉市。災害時の市民への情報伝達に課題

熊本県南部に位置する人吉市。同市では、市内を流れる球磨川にかかる橋の照明を、河川の水位を基に氾濫の危険度に応じて変化させ、市民へ視覚的に災害の危険を伝える「人吉市ライティング防災アラートシステム」を、2022年4月より運用開始しました。

人吉市は「令和2年7月豪雨」によって甚大な被害を受けた地域です。球磨川が氾濫し、その被害は市内約518ヘクタールにもおよび、4,681戸の建物が浸水、死者も発生する事態となりました。

この時の豪雨災害では、以前から市が災害情報の伝達手段としていた「エリアメール」や「防災無線」の限界が明らかになりました。災害後、市民にヒアリングを行うと、特に防災無線は雨音のせいで音声がよく聞こえず、避難を促すアラートの役割を十分に果たせていない場合も多いことが発覚。災害情報の伝達手段については多重性を必要とし、新たな方法の検討が求められることとなりました。

一方、人吉市は「災害に負けないまちづくり」を掲げ、「情報の多重性」というキーワードを盛り込んだ復興計画を立てていました。市内には子どもからお年寄りまで、多様な人々が暮らしています。さらに、人吉市は温泉や川下りなどの観光資源によって、毎年多くの観光客が市外から訪れており、今後インバウンド需要が高まれば、外国人観光客が市内に滞在することも想定されます。川の氾濫の危険性が高まった際に、市内にいる多様な方々に向けてわかりやすく災害情報を届け、迅速な避難につなげられる仕組みをつくることも人吉市の復興計画における課題でした。

橋のライトアップで水害の危険性を市内の人に知らせるアイデア

水害情報の伝達手段について、人吉市が採用した方法は「橋のライトアップ」です。球磨川にかかる橋に取り付けられていた照明を、水害の危険度によって切迫感を伝える複数の色や色の点滅を使い分けて点灯し、川の水位情報を市内に伝達するというアイデアです。

球磨川にかかる橋は、市内の中心部にあります。そのため、橋を見るだけで避難の必要性を認識できるようにすれば、より多くの人の避難行動につなげられると考えました。また、球磨川には以前から河川カメラも設置されており、市民も人吉市防災ポータルを通じて、インターネット上でその様子を確認することができるため、スマートフォンなどから橋のライトの色を確認できれば、市内のどこからでも水害の危険を知ることができます。人吉市は、「災害情報の伝達手段の拡充」と「情報の多重性」を同時に実現する手段として、橋のライトアップによる防災アラートシステムの構築を進めていきました。

全国でも珍しい「災害対策としての橋のライトアップ」という取り組み。アイデアの源は、「令和2年7月豪雨」後に民間団体から提案のあった「灯りの復興計画」でした。「復興の灯」として街をライトアップすることで、街も人の心も明るくして復興を進めようというアイデアでした。この案が、橋のライティングで災害情報を市民に伝える発想へとブラッシュアップされました。

水害情報を伝える橋のライトアップ実現にあたり、橋の照明システムや水位センサーの構築とともに、それらを連動させ、水位データによって自動でライトの色を変えられる仕組みが必要でした。また、行政の取り組みということもあり、システム構築にあたっては高いセキュリティレベルも求められました。さらに、総務省の補助事業に採択され、迅速に実装できるスピード感も必要でした。

実現したサービス概要

IoTを活かし、水位情報と連動した橋の点灯を行うアラートシステムを構築

そして完成したのが、IoTを活用した「人吉市ライティング防災アラートシステム」です。

このシステムでは、球磨川に設置された水位センサーでの取得データをもとに、川の水位と連動して、橋の手すりなどに取り付けられたライトの色を変化させ、市内にいる方々に避難の必要性を伝えます。

平時はライトが電球色のようなあたたかな色味をしており、観光客が楽しめる景観演出となっていますが、緊急時は氾濫注意水位~避難判断水位で白色、氾濫危険水位で赤色、計画高水位で赤点滅と変化。子どもからお年寄りまで、どんな人でもわかりやすいよう配慮され、これらの表現が採用されました。また、ライティング防災アラートの状況は防災ポータルでも確認でき、市民や市役所職員が手元のスマートフォンからでも随時、情報を確認できるようになっています。

IoTによる水位計測システムには、通信を担う「SORACOM Air」、データの収集・蓄積を行う「SORACOM Harvest」、データの可視化を実現する「SORACOM Lagoon」を使用しています。

システムの構築は、株式会社システムフォレストが担当しました。同社は、人吉市内に本社のある地元のIoTソリューション企業であり、ソラコムのパートナーでもあります。同社の松永圭史氏は、「とても重要なシステムなので、セキュリティ担保に強みのあるソラコムのサービスを使ったシステムを提案させていただきました。セキュリティを担保しつつ、短期間でスピーディーに、かつ適正なコストで実現できたのは、ソラコムのサービスあってのことです」と語ります。

幸いこのシステムを実装してから非常時におけるライトの変色は行っていないため効果検証は行っていないものの、市民からは既に「街が明るくなったので、夜中も安心して通行できるようになった」といった防犯上の観点から好意的な声が寄せられています。さらに、「橋のライトアップで災害情報を伝えるシステム」は国内でも珍しい取り組みのため、メディアに取り上げられる機会も増え、その副次効果として、市の注目度が上がるきっかけも生まれています。

今後のサービス展開について

防災システムの安定運用を行い、非常時には早期避難につなげたい

人吉市復興政策部 情報政策課課長の田中裕一氏と、同課主事の中村拳也氏は、災害対策の現場におけるIoTの活用について「相性の良さはあるのではないか」と語ります。

今回のIoT活用で、多忙な被災時にも災害情報発信ができるようになりました。また災害時、市役所の災害対策本部では、これまでパソコンで複数の画面を開きながら幅広く情報収集を行っていましたが、今回のシステム導入によって、防災ポータル上にてスムーズに情報が確認できるようになりました。こうして空いたリソースで、そのほかの災害対策業務へのマンパワーが割ける可能性も出てきました。

災害前は、市内の防災情報に関心を持たない方も一定の割合で存在していました。住民票の交付時に渡しているハザードマップも「見たことがない」という声もあったのが実情です。しかし今回、水害の経験を機に市民の防災意識が高まったほか、災害対策としての橋のライトアップが珍しい取り組みとしてメディア掲載されたことによって、人吉市の防災の仕組みに関する理解も高まりました。より多くの層に対して災害・防災情報への注意喚起ができ、これまで以上に災害情報を届けやすくなったといえるでしょう。

本システムで蓄積している川の水位データは、オープンデータとして第三者も利用できます。データを活用した災害対策に関する教育の実施や、新サービスの開発につながることが期待されています。

「防災の分野は安定運用が大切です。人の命に直結するものなので、今後は安定的にシステムを使っていけるよう、さらに検証を進めていきたいです」(中村氏)

「平時には観光客が楽しめるライト、緊急時にはアラートとしての役割を果たせればいいと思っています。災害が起こらないことが一番ですが、万が一に水害が発生した時は、今回構築した防災システムを使って早期避難につなげることができたらと考えています」(田中氏)

熊本県人吉市
株式会社システムフォレスト

熊本県人吉市
株式会社システムフォレスト

熊本県人吉市 復興政策部 情報政策課 課長 田中 裕一氏
       復興政策部 情報政策課 主事 中村 拳也氏

株式会社システムフォレスト 松永 圭史氏

WEBサイト

DOWNLOAD

導入事例ダウンロード

さまざまな業界のSORACOMを利用した最新IoT事例集をダウンロード頂けます。
下記フォームを入力いただき、送信ボタンを押してください。

全て必須項目となります

個人情報の取り扱いについては、
お客様の個人情報に関するプライバシーポリシーをご確認ください。