コロナ禍でも、お客さまが安心して買い物できるサービスを

2020年4月、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、都市部を中心に緊急事態宣言が発出されました。それ以降、世の中は外出自粛ムードに包まれ、日常の買い物で仕方なく外出する際も、人混みを避ける意識が高まりました。

そんな中、アトレ吉祥寺に勤める清水氏は、来店前に店内の混雑状況がわかるようにできないかと考えました。きっかけは、清水氏自身も在宅勤務を行う中で、買い物に出かけても思いのほか混雑していたため、店内に入らずに引き返してしまったという体験でした。この出来事から、「買い物に行きたいけれど、混んでいたらと思うとなかなか行けない」というお客さまがいるかもしれないと思い至ります。「アトレに行きたくても行けない、せっかく来ていただいても入らずに帰ってしまうというのでは、かなりのチャンスロス。事前に混雑状況を見て、行くかどうかを判断できるようにすることで、お客さまに安心してご利用いただきたいと思いました」と、清水氏は振り返ります。

そこでこの構想を何かしらの方法で実現できればと、施設管理を担当している運営推進部の笠井氏の主導で、店内の混雑状況を可視化するサービス開発のプロジェクトがスタートしました。

プライバシーを遵守しながらも、ありのままの状況を伝えたい

笠井氏は、店内の混雑状況をお客さまに伝えるためには、どのような方法があるかを模索しました。その中で重視したのは、来店しているお客さまのプライバシーが守れることと、ありのままの状況を伝えることにより、お客さま自身で行くかどうかの判断ができること。たとえば、店内の状況をカメラで撮影してウェブで中継するだけであれば簡単ですが、それでは来店しているお客さまのプライバシーが守れません。また、カメラで店内の様子を撮影して解析し、どの程度混雑しているかを色や図で表すという提案もありましたが、その場合はお客さま自身で混雑しているかどうかを判断できるという条件が満たされないことになってしまいます。

それに加えて、できるだけ早くサービスを開始できるよう、スピード感をもってプロジェクトが進められることや、コロナ禍が終息すれば不要になるため、できるだけ開発コストや付け外しの手間を抑えられることも重要でした。

画像をイラストに置き換えて表示するシステムを考案

プロジェクトチームは、条件に合うサービスを求め、複数の会社にヒヤリングを実施しました。そんな中、株式会社JR東日本情報システムが、ソラコムの提供するAIカメラ「S+ Camera Basic」を使った方法を提案。最もアトレの構想に近かったことから、採用に至りました。

そうして実現したのが、「アトレ吉祥寺 館内混雑情報サービス」です。これは、「S+ Camera Basic」から館内の画像を取り込み、画像内のどの領域に人がいたかという情報を数値化してクラウドに送信し、それをもとに館内画像をイラスト風の背景と人型のアイコンに置き換えて表示するというもの。これを用いれば、館内の様子をそのまま伝えられるうえに、画像はイラストに置き換わっているため、来店者のプライバシーも担保できます。

当初、JR東日本情報システムは、混雑の程度を色や図で表す方向で「S+ Camera Basic」の検証を行っていましたが、アトレの発案により、館内の混雑状況をイラストやアイコンに加工して表示できるように開発を進めました。「中でも一番苦労したのは、人型のアイコンをどのような大きさで表示するか決めることでした。アイコンが大きすぎれば少ない人数でも混雑しているような印象を与え、逆にアイコンが小さすぎれば人が多くても空いている印象を与えてしまいます。また、人がいる領域を認識してアイコンに置き換えるため、たとえば手を広げている人がいる場合、広げた幅を人の横幅として取ってしまうといった問題の解決も必要でした」(JR東日本情報システム 石原氏)

「S+ Camera Basic」の活用で、コストを削減しながら最速でのリリースを実現

プロジェクトは、2020年8月にキックオフしてから2カ月弱で開発を完了し、同年10月1日に利用開始という驚異的なスピードで進められました。
スピード感やコスト・手間の削減という面では、「S+ Camera Basic」の持つ特徴が大きく貢献しました。特徴は主に3つ。セルラー回線を搭載しているためWi-Fiなどの通信設定が不要であること、遠隔からアルゴリズムを更新できること、汎用型のマグネットマウントを利用しているため容易に付け外しができることです。

セルラー回線を搭載しているという点では、カメラの設置場所にネットワークを新設したり、既存のネットワークへの接続申請を行ったりする必要がないうえに、セキュリティ面をSORACOMのプラットフォームに任せることができるため、開発に専念でき、プロジェクトのスピードアップにもつながったといいます。

さらに、遠隔からアルゴリズムが更新できるため、運用しながら改善していくことを前提として、一通りの開発が終わった段階ですぐに本番環境に移行させ、最短でお客さまに提供することもできました。「もし毎回現地に行ってアルゴリズムを入れ替えなければならないのであれば手が足りませんし、改善のモチベーションも下がってしまいます。でも、遠隔から更新できたので、お客さまにもアトレ様にも迷惑をかけず、より精度を上げるための細かな改善を行うことができました」と、石原氏。何かの拍子にカメラの電源が抜けてしまったときや調子が悪いときにもリモートで気づくことができるため、すぐに対処できているとのことでした。

また、設置の際に工事が必要ない点や、コロナ禍が終息して不要になればすぐに取り外せる点も、スピードアップやIoT導入の後押しになりました。

「IoTは物理の世界と切り離せないため、ある程度の手間は発生するだろうと思っていましたが、『S+ Camera Basic』はかなり熟考されて作られた仕組みで、イレギュラーなことがほとんど起きませんでした。ソラコムにも、ほぼリアルタイムで質問に回答してもらったり、必要な機能に関してフィードバックするとすぐに新機能を提供してもらえたりと、細かくサポートしてもらえる点が魅力的でした」(JR東日本情報システム 資延氏)

商材化し、ほかの施設への展開も検討

サービスのリリース直後はお客さまの認知があまりなかったものの、売り場が混雑しやすい年末年始にはアクセス数がぐっと伸び、「お客さまの役に立っていることがわかって嬉しかったです」と、清水氏。現在は吉祥寺店以外にも、ジェイアール東日本商業開発株式会社が運営するグランデュオ立川で、同様のサービスの提供が始まっています。今後は、JR東日本情報システムが一連のサービスを商材化し、ほかのショッピングモールなどにも広げていくことを検討中です。

また、付け外しが簡単という点から、笠井氏からは「イベントや催事の実施時に会場の混雑具合がわかるサービスの提供や、荷捌きの管理、防犯にも応用できそう」とのアイデアも聞かれました。

「混雑情報を発信することで、空いている時間をお客さま自身で判断し、混雑を避けられる仕組みを提供するという、お客さまの安心安全をとても大事にしているJR東日本グループだからこそ、今回のプロジェクトが実現できたと思います。それに加えて、短期間で、安価にという点もトータルで叶えられたことも、非常に良かったと考えています」(資延氏)

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