IoT導入の背景/課題

品質にこだわり、お茶の生産機械の自動化や安定化に取り組む

静岡県掛川市に本部を構えるカワサキ機工株式会社(以下、カワサキ機工)は、静岡を代表する産業の一つ「お茶」の生産、特に緑茶関連の生産設備に強みを持つ産業機械メーカーです。お茶の生産量は日本一、全国の茶園面積の約40%を占める静岡で、創業1905年(明治38年)、100年以上続く老舗企業です。

お茶の生産には様々な設備が必要になります。カワサキ機工では、茶葉を栽培する茶園での生産と管理、収穫したお茶の加工等に必要な設備を通じて、開発・製造・メンテナンスまでトータルでサポートしています。

お茶の加工を行う製茶機械は国内シェアの6割を占めます。乗用型の茶園管理機、さらには国内シェアトップのお茶専用の成分分析計やお茶の加工技術を流用した食品加工における殺菌乾燥設備なども手がけています。

お茶は広く普及する嗜好品であり、お客さまから茶葉に期待されているのは「品質」です。カワサキ機工では産業機械の視点から、以前よりお茶の品質を上げることに注力してきました。例えばプラント設備では、各種センサーや計測機を駆使した制御により品質管理の自動化や安定化に取り組み、茶園管理機では、電子制御を取り入れ1mm単位での刈り取りの高さの制御や走行中の操舵アシストも実現。高度化のための機械の制御にいち早く取り組み、強みとしています。

農業が直面する労働力不足、改善のために未経験のIoTサービスに着手

農業は、深刻な労働力不足と急激な高齢化に直面しています。農林水産省が5年ごとに発表している農林業センサスによると、2010年から2020年の10年間で、基幹的農業従事者の数は約3割減っている一方、1農業経営体当たりの経営耕地⾯積は1.4倍と拡大しています。また、個人経営体の基幹的農業従事者のうち65歳以上が占める割合は、約70%です。

昨今対応が始まった食品衛生管理の規格であるGAPやHACCAPは、生産から加工の管理作業の内容を細かく記録・保管するもので、新たにそのための作業を必要とします。このような状況に対応していくために、IoTを活用した自動記録や管理のサービスの検討が始まりました。

一から作らずパートナー企業との連携で、わずか1年でサービス提供を実現

カワサキ機工には、機械の制御技術は蓄積されていましたが、IoTに関するノウハウを持つ社員はサービス検討開始時にはいませんでした。代表取締役社長の川﨑氏は、当時の判断について以下のように振り返ります。

「お客さまのためにやり遂げたいという思いがありました。技術進歩がめざましい現在においては、一から学び、提供までに時間がかかることはリスクにもなります。短期間で新技術を取り入れたサービスを実現する方法として、すべてを自社で作らずパートナー企業と連携することを決めました」

そうして2019年秋からIoTサービスの開発に着手し、わずか1年後の2020年8月にIoTとクラウドを活用した茶葉の情報管理サービス「カワサキスマートコネクト」を提供開始しました。

実現したサービス

IoTで茶園管理機の作業を自動記録、作業日誌や加工プロセスに連携させデジタル化を実現

「カワサキスマートコネクト」は、まず茶園管理作業の記録を自動で収集します。乗用型の茶園管理機にGNSS(全球測位衛星システム)のトラッカーを搭載し、機体ごとの位置情報、作業時間を自動的に記録します。さらにオプションの通信ゲートウェイを搭載すれば、機械データから収穫や薬剤散布などの作業内容も記録可能です。

ライブリッツ社の農業日誌アプリ「Agrion」と作業データを連携させて、アプリ内で茶園毎の作業記録を日誌としてスマホで閲覧、追加できます。さらに、Agrionのデータを再度カワサキ機工の生葉受け入れ管理システム「データキーパー」に転送することで、生葉加工時に栽培履歴データを紐付けられる仕組みです。

茶園は広大で広範囲に分散しています。これまでは、農家の方は一日に何カ所もの圃場をトラックで移動しながら作業し、夕方事務所に戻ってレポートを作成していました。IoTサービスの利用者からは、「自動的に記録されることで、正確かつ迅速に状況を把握できるようになった。作業者のストレスも軽減した」という声が寄せられています。

このような連携の多いシステムの各所でIoTプラットフォームSORACOMを利用しています。茶園管理機からのデータ取得には、データ通信サービス「SORACOM Air for セルラー」を利用するほか、SORACOM上でデータ形式の変換や自社クラウド連携の認証管理を行っています。デバイス側の開発や設定を極力抑えられるため、短期間で開発できるほか、今後新たなデバイスが追加されても対応しやすいというメリットがあります。

「IoTへの取り組みは初めてでしたが、ソラコムが提供するIoT DIYレシピやユーザーガイドには具体的な開発手順が記載されており、『これなら始められる』という手応えを感じました。SORACOMのサービスには、思い描くIoTシステムを開発するためのパーツが揃っています。開発期間を短縮できただけではなく、今後の改善や運用を見据えたシステム構成を実現できました」(桜井氏)

今後の展開について

自動記録から見えてきた次なるステップ、予知保全やエコファクトリーへの道

茶園の作業や生産加工管理がIoT化され、リンクしたことで次なるアイディアも多数生まれています。例えば、乗用型の茶園管理機では、現在はメンテナンスは把握してから迅速に対応する体制ですが、今後は機械の稼働状況をモニタリングすることで故障を未然に防ぐ、予知保全に切り替えていくことを見据えています。

茶葉の栽培履歴と加工履歴をリンクさせ分析を進めれば、品質の見える化、栽培へのフィードバックなど、品質底上げのための活動も可能になります。また、設備の稼働状況、資材や燃料消費といったデータ分析は、稼働効率の改善や工場の省エネの実現にもつながり、エコ活動への適用も考えられます。

「当初、自分達だけではIoTサービスは到底提供できないと思っていました。SORACOMを活用することで、従来から蓄積してきた機械制御のノウハウを活かしながら、組織としてIoT活用の勘所や技術ノウハウを習得しつつあります。私たち自身も学び成長することは、今後システムをより良く改善していくためにも必要です」(桜井氏)

「新しいことに取り組むことは、とても勇気がいることです。企業として、一歩上を目指して、挑戦しつづけることが重要だと感じています」(川﨑氏)

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