高齢化社会で、移動による健康増進を目指す

システム開発等を行うコガソフトウェア株式会社(以下、コガソフトウェア)は、IT業界で常態化していた労働環境の3K(きつい、厳しい、帰れないなど)の撲滅を目指し、社会に貢献したいという思いで2000年に創業。設立当初から、東京大学をはじめとする産官学と連携して事業を進めてきました。

そのなかで同社は、日本の大きな社会課題である少子高齢化の解決をテーマに据え、高齢者の健康を増進することで、長く働いてもらうことや、医療費の削減につなげたいと考えました。

具体的にどのようなソリューションにするかを検討しながら東京大学と様々な話をしてきました。そして、オンデマンドバスの研究を行う研究室が、「高齢化社会において外出困難な人を救う」「移動によって健康を増進する」といったコガソフトウェアと同様の目的を持っていたことから、2011年にオンデマンドバスの研究に加わることになりました。

オンデマンドバスとは、乗り合い型のタクシーのようなもの。呼んだら迎えに来て目的地まで連れていくというタクシーのメリットと、複数の人を安く効率よく運ぶという路線バスのメリットの良いとこ取りをした交通手段です。送迎を予約すると、同じような時間に予約した人を乗せてそれぞれの目的地までドアツードアで送ります。

オンデマンドバス自体は2011年以前から過疎地などで導入されており、最初は人の手でルートの考案や配車を行っていましたが、中規模程度の都市でも導入されて予約数が増えると、処理が限界に。そこでコガソフトウェアは、AIが最適なルートを自動的にマッチングして業務効率化を図るサービス「孝行デマンドバス」の開発を始めました。

オプションなどでソラコムのデータ通信サービスに乗り換え

孝行デマンドバスのアルゴリズムは、すでに東京大学が開発し始めていたものを引き継ぎましたが、山や川を突っ切るルートを提案するなど、社会実装にはまだまだ至らない点が多く、そのチューニングに苦労したといいます。

また、車両にはルートの指示などを出すための機器を搭載する必要がありましたが、2011年当時は耐熱性や耐衝撃性に優れて車載できるものが少なく、選定や調達にも苦労がありました。

ローンチ前の3カ月間はテスト運行を行いましたが、ルートが全く適切にマッチングされなかったり、検索速度が1回30秒もかかって予約者を待たせてしまったりと、次から次へと課題が。なんとか3カ月で試行錯誤の開発を続けて、2012年7月のローンチに至りました。

ソラコムのデータ通信サービス「SORACOM Air」が孝行デマンドバスの車載器通信に採用されたのは、2016年のこと。もともと使用していた通信サービスは、あまり使わない月があっても料金が一定で解約期間の縛りもある等、契約の自由度があまり高くありませんでした。また、自治体の求めるセキュリティレベルを満たすために、サーバーが受け取るIPアドレスに制限を掛けると、料金が高額になるという課題もありました。

それに対してSORACOM Airは、従量課金制で解約期間の縛りもなく、セキュリティも固定IPのオプションが付けられるようになっています。「当社の課題をいっぺんに解決してくれるというところで導入を決め、それ以来ずっと活用しています」と、モビリティサービス部 部長代理の藤田芳寛氏。コガソフトウェアの開発サイドで、ユーザー側の通信使用量が管理画面から見られるようになっていることも高評価で、自治体の予算の管理などにも役立っています。

地元の交通セクターと、競争ではなく協業で地域に貢献

孝行デマンドバスの仕組みは、電話やインターネットから、利用者が希望する乗降場と発着時刻を指定して予約すると、システムがその条件を満たす最適な予約候補を提案するというものです。予約が複数入れば、すでに近い時刻に入っている予約の発着時刻を少しだけずらした予約候補をシステムが提案し、乗合率を高めます。自治体はもちろん、企業にも活用されています。

自治体への導入では、公平性を保つために、地元で運行しているバス会社やタクシー会社との合意や住み分けも重要です。オンデマンドバスを導入すると言うと、最初は「自分たちの事業領域を荒らされるのでは」という懸念から反対されることが多いですが、地域公共交通会議という法定協議会を設け、オンデマンドバスの運行に同意を得ます。

バス会社の場合は、利用者の目的地が路線バスで行けるところであれば、オンデマンドバスでバスの停留所まで利用者を連れていき、そこから路線バスに乗り換えてもらうようにすることで、受け入れられることが多いそうです。

またタクシー会社は、自治体がタクシーを孝行デマンドバスの車両としても活用することで、自治体の押さえた時間は乗客がいなくても運行委託費がもらえる点をメリットだと感じてもらえることも多くあります。加えて、利用者はタクシーが使われたオンデマンドバスの利用を通して“自宅に車を呼んでどこかへ行く”ことが当たり前になり、タクシーの利用機会が増えたケースもあることから、そういった面に期待して受け入れてもらえることもあるとのことです。

導入は、自治体・オンデマンドバスの委託先企業・利用者の3者にメリットがある

孝行デマンドバスの導入事例として、岡山県玉野市が挙げられます。同市では、タクシー車両を活用したオンデマンドバスを「シータク」という名称で運行。自治体が運営する路線型のコミュニティバス「シーバス」と並行して公共交通網が形成されています。

シータクの運行は地元のタクシー会社3社が請け負っており、予約からルートが決まれば、各タクシー車両に取り付けたタブレット端末に通知して、配車します。乗車料金は距離に関係なく1回300円です。

同市は以前から自治体でアナログ配車のオンデマンドバスを運行していましたが、孝行デマンドバスのシステムを導入したことで多くの利用を受け入れられるようになり、利用者は1日200~300人にものぼっています。また、これまでは地元をよく知るオペレーターがルートを作成して配車していましたが、システム導入によって誰にでもできるようになり、雇用の促進にもつながりました。

システムの導入はドライバーにとってもメリットがあります。これまでのような無線や電話での伝令だと、送迎を忘れたり、送迎先を誤ってしまったりと、行き違いや齟齬が発生していましたが、車載タブレットへの通知になったことで、内容をきちんと確認し、特別なノウハウがなくても最適なルートでしっかりと運行ができるようになりました。システムでは、運行の所要時間に余裕をもってルート案内をするようにしているため、急がなくても約束の時間を守りやすくなり、安全性も向上。利用者からもその正確性が評価されています。

孝行デマンドバスのシステムは自治体のほかにも、株式会社アイシンが提供する乗り合い送迎サービス「チョイソコ」に技術協力されていたり、一般企業の通勤の送迎に取り入れられたりと、活用の幅が広がっています。「朝晩の通勤・通学の送迎や、昼間は空き時間となるスクールバスを活用したオンデマンドバスなど、これからは『ライドシェア』という文脈での活用も増えていくと考えています」(藤田氏)

今後は、複数の交通手段と連結して活用の幅を広げていくことで、エリアの全体最適を目指していくとのこと。「移動によって健康になってもらい、医療費の削減などにつなげるというのが本来の目的。交通以外の要素も組み合わせることで生まれる副次的な効果をクロスセクター効果と呼びますが、国土交通省や医療機関などと組んで様々なデータを取得しながら、その検証も進めていきたいと考えています」(藤田氏)

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