IoT導入の背景

創業66年の西陣織のメーカーが、ウェアラブルデバイス事業に参入した理由

ミツフジ株式会社は、京都の伝統的な織物である西陣織の帯のメーカーとして1956年に創業しました。繊維産業や着物産業の斜陽化に伴い厳しい状況に置かれた同社は、1990年代から銀メッキ繊維に着目して研究開発を重ね、その特徴を生かした製品を生み出してきました。

銀メッキ繊維は独自技術でナイロン芯材に銀をコーティングしており、抗菌防臭・保温・保湿・電磁波シールドなどの銀の性質を持った高機能繊維で、靴下や電磁波防止のOAエプロンなどの素材に使用されてきました。さらにこの銀メッキ繊維の持つ「導電性」に着目し、心拍波形を正確に取得できるセンサーとして編み込まれたスマートウェアを活用した、ウェアラブルIoTソリューションhamon事業を2016年にスタートしました。ウェアを着用することで、着用者の心拍、ストレス、眠気、暑熱リスクなどの体の状態がアプリで可視化できる仕組みです。

本プロジェクトを率いてきた、ミツフジ株式会社 代表取締役社長の三寺歩氏は、「当社は“生体情報で人間の未知を編みとく”という企業スローガンを掲げ、ウェアラブルセンサーとなる銀メッキ繊維の研究開発を行っています。センサーから正確なバイタルデータを取得し、そのデータをもとに様々なアルゴリズム開発を行い、これまで分からなかった自分の体に起こる変化や未来を知ることにより、少子高齢化に代表されるような様々な社会課題の解決に貢献したいと思っています。そのニーズに向き合った結果、銀糸からスマートウェア、生体情報の分析アルゴリズム、クラウドサービスまでをご提供するソリューションサービスを手掛けることになりました」と語ります。

2021年には、暑熱リスク検知に特化した初のリストバンド型ウェアラブルデバイス「hamon band」を発表。これまで培ってきたhamon技術をもとに、産業医科大学と共同開発したアルゴリズムを搭載し、手首につけるだけで脈拍情報から深部体温上昇の変化をとらえ、赤・黄・緑のLED点灯と振動で暑熱リスクを知らせるこのデバイスは、装着の容易さから、わずか1年で280社以上に採用されました。

次々に寄せられる現場の声、利用企業からの更なるニーズに応えるべく、2022年10月から新たに提供開始したのが、セルラー通信機能付きスマートウォッチ“MITSUFUjI 03”です。

実現したサービス

スマートウォッチと独自の分析アルゴリズムで、体の状態の変化を管理

“MITSUFUjI 03”は、「ウェアラブル技術で培ってきたすべてのアルゴリズムを搭載」、「セルラー通信搭載」、「遠隔での一元管理」の3つの特徴があります。

着用者の脈拍、歩数、位置などの基本情報に加え、暑熱リスク、ストレス値、集中度、体のコンディションの変化を可視化し、リアルタイムにアラートを提供することができます。

また、セルラー通信を搭載したことで、利用にあたってスマートフォンなど他のデバイスへの連携が不要になりました。難しい利用方法や説明書の確認の必要がなく、手首に着けるだけで自分の体調変化を確認できます。

さらに通信機能により、管理者は一人ひとりの暑熱リスクや健康状態を遠隔で一元管理ができるようになりました。予兆を検知した際に送られるアラート通知を使えば、刻々と変わる着用者の状況をリアルタイムで把握し、改善活動につなげることもできます。

装着した瞬間から意識しなくても使えるウェアラブルデバイス

三寺氏は、ウェアラブルデバイス普及の鍵は「使い勝手の向上」にあると語ります。

従来型のウェアラブルデバイスの多くは、BLE(Bluetooth)で一度スマートフォンにつないでからクラウドにデータを送信するという仕組みです。この方式では、ユーザーは常にスマートフォンを携帯する必要があり、利用に際しても操作を理解する必要があります。管理者にとっても、見るべき点が多く、データが正しく取得できていないといったトラブル対応にも手間がかかっていました。

そこで、“MITSUFUjI 03”にセルラー通信を搭載することで、ユーザーは電源をいれて腕に装着すればすぐに使い始められるようにしました。

この通信として、SORACOM Air for セルラーを使っています。軽量でサイズも小さいチップ型SIM(Embedded SIM、eSIM)を採用し、複数の通信キャリア(マルチキャリア)に対応するサブスクリプション(通信契約)を利用することで、日本中の様々な場所でご利用いただく際に、通信のつながりやすさを実現しています。

「ウェアラブルデバイスの開発において、最も難しい問題のひとつが通信です。私たちはウェアラブルのプロですが、通信のプロではありません。SORACOMのeSIMを搭載したことで、通信まわりの課題はもちろん、デバイスの開発や運用もスムーズになりました。“MITSUFUjI 03”は、私たちが目指してきた『誰もが手軽に使えるデバイス』を実現しています」(三寺氏)

今後の展開について

生体情報マネジメントの技術を、医療やスポーツ分野にも拡げる

ミツフジは、2022年「体動に起因したノイズ」の影響を受けにくく、運動中の心拍波形を高精度に取得できる新たなウェアラブルセンサー“MITSUFUjI 01”を発表しました。このセンサーによって、これまでは困難とされてきた運動時の正確で連続した心拍波形を取得できるようになったことで、新たなアルゴリズムの開発や、アスリートのコンディション管理やパフォーマンス評価、日々の生活から不調を検知など、幅広い分野や用途への応用が見えてきています。

「スポーツや医療といった高精度なデータ分析も可能になれば、生体情報の分析アルゴリズムの開発も進み、今は難しいような症状の予測もできるようになるでしょう。パートナー企業とともにウェアラブルの技術的な壁を取り払い、生体情報を深く解析し、世界中に安心・安全と希望をお届けしていきたいと考えています」(三寺氏)

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