低価格で煩わしい操作が一切不要なスポーツウェアラブルデバイスを

近年、ウェアラブルデバイスを装着してスポーツを楽しむ人が増え、スポーツに関わる企業でも、デバイスの開発に注目が集まっています。競技用シューズやスニーカーなどを製造する株式会社アシックス(以下、アシックス)は、スポーツウェアラブルデバイスの開発を行い、新事業を立ち上げました。それがスポーツデータ統合システム「TUNEGRID(チューングリッド)」です。

主に靴や服の製造販売を行ってきたアシックスが、スポーツウェアラブルデバイス事業を始めようと考えたのは2014年。そもそもIoTやセンサー活用のビジネスとあまり接点がなかったアシックスは、当時研究開発部門で、センサーで選手のパフォーマンスを計測できる競技用シューズに取り組んでいた同社の坂本賢志氏に、ウェアラブルデバイス事業の立ち上げを任せました。

目指したのは、すでに世の中に出始めているウェアラブルデバイスと差別化ができるような、ユニークなサービス。アシックス内の人員だけでは開発が難しいことから、デバイス開発やシステム構築などができる他社の協力を得て、初めてスポーツウェアラブルデバイスをつくって2015年に発売しました。

「しかし、そのデバイスは非常に高性能である代わりに高価格であったため、思ったように普及しませんでした。そこで思い切ってコンセプトを転換し、できる限りコストを抑えて、ユーザーが導入しやすい低価格なサービスを目指すことにしました」(坂本氏)

コストを抑えることのほかにもう一つこだわったのは、小さくて軽く、水や衝撃などにも強いこと。つまり、ユーザーが装着しているデバイスを意識することなく競技に集中できることを重視しました。

開発パートナーのKDLと試行錯誤を繰り返し、事業化を目指した

開発コンセプトを完全に切り替えたのは、2017年のこと。検討を行う中で、歩数のデータと各センサー固有のIDを組み合わせて取得することが、新しいサービスの展開に有効ではないかということが見えてきていました。一方で、実現には、センサーが取得したデータを受け取ってクラウドに送信し、ユーザーにわかりやすい形で表示する仕組みが必要でした。そこで、それを実現できる新たなパートナー企業を探しました。

新たなパートナーとしたのは、アシックスと同じ神戸に本社を持つIT企業の株式会社神戸デジタル・ラボ(以下、KDL)。当時の社長同士に交流があったこと、KDLがその少し前からIoTに取り組み始めていたことから、協業をスタートしました。

開発は、主にアシックスがユーザーの声を拾い上げてサービスのUXの方向性などを考え、それをKDLが実現するといった形で分担。ユーザーによる実証実験と開発を同時並行で進め、試行錯誤しながらサービスとして改良していきました。

「それまで、どこかに開発を依頼するときは、我々が『こうしてほしい』と言ったことをそのまま形にしてもらうことばかりでした。ただ、知見がない分野では、そもそもどういった製品をつくればいいのかすらもわかりません。それに対し、KDLさんとは対等な立場のパートナーとしてお互いに意見を出し合うことができたので、サービスをより良くしていくことができたと思っています」(坂本氏)

柔軟な発想やSORACOMの採用で、開発や生産のコストを削減

こうして事業化に至ったTUNEGRIDの基本機能は、センサーを装着している人の歩数と、エリア内の場所や時間、いつ動いていたかがわかることです。重さ約5グラムの小型センサー「TUNEGRIDCube(チューングリッドキューブ)」をシューズに入れ、そこから発信されるBluetoothの信号を専用のレシーバーが受信して、インターネット経由でクラウドにアップロード。そこでデータの処理を行い、結果として運動量、エリアデータ、稼働データの3つをわかりやすく表示します。

開発で苦労したのは、やはりコストを下げることでした。そのために行ったことの一つは、機能をシンプルにすること。機能をシンプルにすれば、取得できるデータもシンプルなものになってしまいますが、その一方で、結果の解釈の幅が広がるという利点もあります。

ほかにも、たとえばセンサーの生産においては、通常であればできるだけ不良品率の低い工場ラインを考えることが良しとされるところを、不良品率が20%の工場ラインであっても、そちらの方が総合的なコストを抑えられるのであれば採用するといった形で、柔軟に考えていきました。

さらに、「通信手段としてソラコムのIoT SIMを採用したこともコストを抑えられたポイントの一つ」と坂本氏。「LPWAなども検討しましたが、コストを下げるという視点では、やはりIoTに特化した通信手段を使うのがいいだろうと考えました。また、Wi-Fiであれば設置先に合わせた設定を都度行う必要がありますが、携帯電話回線を利用しているセルラー通信であれば、どこに持って行っても通信できます。今の時代、ユーザーはどこでもすぐ使えることが当たり前だと思っていますし、気軽に使えるかどうかでサービス自体の印象も変わります。その中でもソラコムは、導入費用やランニングコストが安価で、通信も安定しているところがいいですね」(坂本氏)

「TUNEGRIDのレシーバーが、電源を入れるだけで誰でも使える仕組みになっていることも、ソラコムを採用したから実現できたことだといいます。加えて、機器に何らかの故障があっても、新しい機器を送付して差し替えるだけで前の機器と同様に使うことができます。機器準備のリードタイムも短縮でき、技術者が現場に行く必要がないことも、コストの削減に寄与しています。」(中西氏)

機能がシンプルだからこそ、幅広く活用できる。将来は社会インフラに

TUNEGRIDは、国際的なスポーツ大会に出場する日本のハンドボールチームや、学生の部活動、障がい者スポーツなどで利用されているほか、結果がシンプルで子どもにも解釈しやすいことから、子どものスポーツスクールなどでも使われています。さらに、アシックスならではの応用として、個々のデータの特徴からプレイヤーに合う靴の提案にもつなげることで、より大きな付加価値をつくり出しています。

また、神戸市立科学技術高等学校では、ハンドボール部のパフォーマンス計測のために導入したTUNEGRIDを、IT教育の一環であるデータ分析の授業にも活用。部活動だけでなく、生徒の日々の運動量なども計測し、そのデータで分析手法を学ぶとともに、生徒の健康管理にも生かしています。「高性能なものであれば、あらかじめ決められたオペレーションに則る必要がありますが、TUNEGRIDは機能がシンプルであるがゆえに、ユーザー自身でやりたいことの実現方法を考えやすいんです。」(坂本氏)

このような活用幅の広さが評判となり、自治体からも高齢者の健康管理に活用したいと注目されました。そして実際に高齢者向けの企画として、高齢者にセンサーを内蔵した靴を提供し、1日の運動量を地域のいろいろな場所に取り付けたレシーバーで計測して、運動量の多い人にはタオルをプレゼントするといった形で、運動促進が行われています。

街の中にレシーバーを取り付け、地域の子どもや高齢者の移動情報を得ることで、見守りにも活用。たとえば深夜に1万歩歩いている高齢者がいれば、徘徊の可能性があると気づくことができるようになっています。

ほかにも、工事や介護などの現場では作業者の時間当たりの歩数から作業量を割り出し、人員の適正配置やシフト管理、オーバーワークの管理に役立てたり、牧場ではセンサーを牛に取り付けて、牛の運動量を管理するといったことにも活用されています。

もともとはスポーツ用のパフォーマンス計測機として開発されたものの、今では様々な社会問題を解決するDXソリューションとしての可能性が広がるTUNEGRID。坂本氏は、今後はこれが社会インフラとして普及していけばいいと考えています。

「TUNEGRIDは、靴と一体になっているシステムです。靴は、小学生向け、高齢者向けと、履く人の属性が自然に分かれるので、個人情報をあえて取らなくてもTUNEGRIDのデータと属性を結び付け、傾向を見ることができます。

今後は、ほかのシューズメーカーにもTUNEGRIDの提供を進め、価値を理解してもらうことで、社会インフラとして普及できるよう活動していきたいと思っています」(坂本氏)

 

株式会社アシックス
株式会社神戸デジタル・ラボ

株式会社アシックス
株式会社神戸デジタル・ラボ

株式会社アシックス 事業推進統括部
坂本 賢志氏

株式会社神戸デジタル・ラボ デジタルビジネス本部 エンゲージメントリード
中西 波瑠氏

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