株式会社ソラコムがお送りする「IoT速報-ビジネスの最前線-」。今回は、中村留精密工業株式会社が開発した、IoTを活用した工作機械用の監視ソリューション「Dr. Tool(ドクター・ツール)」をご紹介します。

【この記事でわかること】
・製造業の現場で深刻化する人手不足と技術継承の課題を解決するため、工作機械メーカーがIoTソリューションを開発
・電流センサとエッジデバイスを用いて工具の破損を検知し、リアルタイムに機械を停止・通知
・セルラー通信を活用し、工場のネットワーク環境に左右されない手軽な導入を実現
・今後は対応工具や機械の拡大、予兆保全など、製造現場の課題解決に向けた機能強化を予定

【SORACOM活用のポイント】
・マルチキャリア対応したSORACOMの通信を採用し、場所に応じた通信キャリアを柔軟に選択
・SORACOMのサービスでセキュアなデータ通信を実現し、設定の手間を削減
・SORACOMのサービスで通信パケットを可視化し、開発時のデバッグを効率化

導入の背景

製造業の危機に立ち向かう工作機械メーカーの新規事業

中村留精密工業株式会社(以下、中村留精密工業)は、1960年より続く石川県の工作機械メーカーで、旋盤やレンズ加工機などの製品を手がけています。

同社は現在、「BridgƎ(ブリッジ)」という新たな事業部を立ち上げ、製造業が直面する人手不足と技術継承の課題解決に挑んでいます。日本では、2020年から2030年の10年間に生産年齢人口が634万人も減少すると予測され、さらに2040年までには1531万人が減少する見込みです。

その影響は、すでに表れつつあります。製造業では、技術継承ができず廃業を選択する中小企業が増加。中村留精密工業の顧客の中にも、新しい人材が入らず、技術継承が困難で事業を畳むケースが出てきています。

「我々のお客様の中には、技術力のある中小企業が多く存在します。しかし、後継者がいないために廃業する企業も少なくありません。このような問題に対して、製造業全体に貢献できるソリューションを提供する必要があると感じました」(事業部責任者 中尾政史氏)

そこで同社は、これまでのハイエンド向け工作機械の製造で培ってきた技術や知見をもとに、隣接分野で事業を企画。工作機械の工具や稼働状況を監視し、製品の歩留まり(原材料の投入量に対し、実際に得られた生産数量の割合)の改善を促すシステムを発案。第一弾の製品として「Dr. Tool」を開発しました。

実現したサービス

工作機械の工具異常を24時間365日監視する「Dr. Tool」

「Dr. Tool」は、外付けの高精度電流センサとデバイスを用いた、工作機械用の監視ソリューションです。金属を加工する刃物など、工作機械に取り付けた工具に異常がないかを電流値で計測し、異常を検知すれば機械を即座に停止して現場担当者に通知します。

工作機械で使用する工具は消耗品のため、折損や曲がりが生じることがあります。特に、夜間など人がいない時間に問題が発生した場合、迅速に交換することができないため、不良品を大量に生産し続ける事態が発生してしまいます。そうした状況を避けるために、これまでは接触式センサを使用して工具の状態を確認していましたが、この方法は異常検知に多くの時間がかかり、工場の生産効率を低下させていました。

「Dr. Tool」は工具の状態を非接触で測定でき、直径0.5mmの非常に小さな工具でも破損検知が可能です。無人で24時間365日監視するため、生産の遅れや無駄を解消できるだけでなく、対応要員も削減できます。

SORACOMで実現できた、最短15分設置の「簡単導入」

工場の現場担当者は、ITやIoTに明るくないケースが多く、大規模な工事や社内LANなどのネットワーク設定が必要になると現場に負担がかかります。そこでDr. Toolは、外付けセンサやデバイスからクラウドへのデータ通信にSORACOMのセルラー通信を採用し、特殊な工事なし、最短15分で設置できる「簡単導入」を実現しました。

「契約管理をウェブやAPIで実現できる点がSORACOMサービスの利点です。我々のサービスは年間契約料を支払っていただく形ですが、この契約管理をSIMの有効・無効で判別できます。Amazonのクラウドサービス Amazon Web Services(AWS)との相性も良く、担当者が親身に相談に乗ってくれたことがSORACOMサービス導入の決め手でした」(中尾氏)

また、Dr. Toolのシステム開発を担当した矢來宙都氏は、SORACOMの提供するプラットフォームサービスの役割を強調します。

「AWSとエッジデバイスをつなぐ際の煩雑な作業を、SORACOMが解消してくれました。セキュリティ関連の手間を大幅に削減できました」(矢來氏)

さらに、開発の際にはデバイスとクラウド間の通信状況を確認するためにSORACOMを活用。通信の問題を迅速に特定し、解決しました。

システム導入にあたっては、福岡県のシステムインテグレーターでソラコムの認定済パートナーでもある株式会社Fusicも参画。中村留精密工業・ソラコム・Fusicが一体となり、サービスローンチに至りました。

今後の展開

Dr. Toolから始まる、製造業の大規模プラットフォーム構想

2024年度末までに、対応可能な工具や機械の種類を増やしていく計画です。さらに、2025年度以降の海外展開も視野に入れており、各国の規制をクリアするための準備も進めています。

「我々は今後もDr. Toolに留まらず、日本の生産年齢人口が不足しているという課題に対して引き続きアプローチしていきたいと考えています。製造業には、解決や実現に向けて取り組むべき課題や要望が無数に存在しています。我々にも今後手がける事業のネタとして、すでに99個のアイデアがあり、その中からAIやIoTを活用したソリューションなど、また新たな事業を創出するつもりです」(中尾氏)

中村留精密工業には、今回リリースしたDr. Toolを足がかりとして実現したい大きな構想があります。

「最終的には、製造業の企業同士をつなぐ、大きなプラットフォームを実現させたいのです。日本ではいずれ、人手不足を補うために、中小企業や町工場のリソースをシェアして生産する時代が来るはずです。Dr. Toolは、その構想に向けた第一歩。生産年齢人口が大きく減少した未来でも、各社がそれぞれの特徴を生かしたものづくりができるような環境を作っていきたいです」(中尾氏)

DOWNLOAD

導入事例ダウンロード

さまざまな業界のSORACOMを利用した最新IoT事例集をダウンロード頂けます。
下記フォームを入力いただき、送信ボタンを押してください。

全て必須項目となります

個人情報の取り扱いについては、
お客様の個人情報に関するプライバシーポリシーをご確認ください。