生鮮食品輸送時に温度や湿度、位置情報を見える化し品質を担保

生鮮物流現場の課題に取り組みたい

「毎日の料理を楽しみにする」をミッションに、日本最大級の料理レシピ投稿・検索サービス「クックパッド」等を運営する、クックパッド株式会社（以下、クックパッド）。かねてより、単に料理レシピの投稿・検索サービスを提供するだけでなく、ユーザーがどのように食品を手にしているのかにも注目してきました。

これまでの生鮮物流では、消費者に食品が届くまでに仲買や小売、流通から保管、販売まで、多くの人手を必要としてきました。当然、業者や人の数だけ値段は高くなり、時間がかかるだけ鮮度も落ちていました。また商品の大量販売を前提とした均一性が求められる流通では、独自の工夫を凝らす生産者が正しく評価されない課題もありました。

生鮮食品ネットスーパー「クックパッドマート」は、生産者や商店と消費者がダイレクトにつながることで、新鮮で魅力的な食材をアプリから安価かつスピーディーに購入できるサービスです。開発担当の今井晨介氏に、サービス実現に至るまでのお話を伺いました。

コスト、安全性、セキュリティ… 見えてきた生鮮物流の壁

開発にあたり、3つの課題がありました。

1つ目は、注文を受け取る機器の導入コストや手間をいかに削減するか。生産者は、受注をFAXや電話でのみ対応していることが珍しくありません。大掛かりな工事が不要で、誰でも簡単に操作できる機器の開発が求められていました。

2つ目は、食の安全性をいかに担保するか。生鮮物流では、食品を保管する冷蔵庫の温度管理は人の目で確認し、点検簿に記載するのが一般的です。作業の自動化や遠隔管理が必要でした。

3つ目は、セキュリティ対策です。人員配置が不要で、消費者が好きなタイミングで食品を受け取れるように、食品の受け渡しには設置型の冷蔵庫を採用しましたが、無人の冷蔵庫を安心してご利用いただける仕組みづくりが不可欠でした。

生鮮物流の課題をIoTで解決。生産者と消費者をダイレクトにつなぐ

これらの課題に対して、IoTを活用した3つのプロダクトで対応しました。「IT系の企業ですので、人海戦術よりも仕組みで物事を解決する方が得意です。生鮮物流の実現には仕組み化が欠かせず、そのための手段としてIoTの導入は自然な流れでした」（今井氏）

1つ目は、ラベルプリンターです。

これをインターネットにつなぐだけであれば回線の工事を行えば可能ですが、契約から工事、利用まで、少なくとも1ヶ月はかかるのが一般的です。当社が使用したラベルプリンターは、すぐに入手できるソラコムのセルラー回線でつながり、電源を入れるだけで受注業務に使用できます。生産者は注文を受けたら、プリンターから印字される情報に従ってラベルを添付し、発送するだけです。

「『誰がどのような環境で使うのか』は大いに意識しました。通信機能を付けたラベルプリンターを置くだけで導入可能という手軽さのおかげで、ITが苦手な方にとってのハードルを下げられました」と今井氏。

2つ目は、複数のセンサーを内蔵した機器、GPSマルチユニット SORACOM Editionと専用の保冷バッグの組み合わせです。

肉や魚などは、温度が上がると腐敗の危険があります。従来は大きな冷蔵庫や冷蔵トラックで流通してきましたが、コストも人手も必要です。物流業者として誰でも参画可能にしたく、専用の保冷バッグに食品を入れるだけで、位置や温度を遠隔で管理でき、温度上昇時には通知を受け取れる仕組みをつくりました。これらはSORACOMのサービスで、クラウド上のシステムにスムーズに連携しています。

3つ目は、食品の受け取り場所に配置される冷蔵庫です。QRコード読取機や制御用の超小型コンピューター、ソラコムを利用した通信機能が組み込まれているため、配送員や購入者の解錠を安全に管理できます。

異常も検知しアラートが届くため、購入者が安心できる仕組みを徹底しています。

「より広く生産者と消費者をつなげていく過程でさらなる改良点は出るはずなので、常に改善を続ける視点でサービス開発を進めています」（今井氏）

ここからが本番。展開スピードをあげて社会課題の解決に取り組む

2021年4月時点で受け取りは東京・神奈川・埼玉など関東のみで約500拠点、冷蔵庫は約1,000台、ラベルプリンターは約300台が稼働しています。2018年のサービス開始時は10拠点でしたが、着実に数を増やしています。

また、メーカーと協力し、専用品の開発も進めています。冷蔵庫や保冷バッグの温度管理精度の高め方や、QRコードで時間がかかる商品管理の作業をRFIDで効率化できないかを模索しています。

「これまでウェブやアプリで様々な課題を解決してきましたが、それだけではどうしても解決しづらい課題がありました。SORACOMのサービスで、ウェブアプリケーションやインフラのエンジニアにとっても、IoT活用はぐっと身近な技術になりました。ソフトウェア事業で培った素早い展開力とクックパッドマート事業のIoTプロダクトづくりで培ったノウハウを組み合わせ、今後は一気に展開スピードをあげて社会課題の解決に取り組んでいきます。」