進化を続けるエレベータの遠隔監視システム

エレベータの開発から製造、設置、運用、保守までをワンストップで行うフジテック株式会社(以下、フジテック)。同社は、エレベータのメンテナンス業務において、IoTを使った「遠隔監視システム」を活用しています。

遠隔監視システムは、社会インフラとして休みなく稼働するエレベータが問題なく動いているかを監視し、問題があれば利用者や設置先の施設から連絡を受ける前に感知して、適切な対処をするという目的で開発されました。データは、エレベータに設置された通信モデムからAmazonのクラウド(Amazon Web Services、以下AWS)上に送信され蓄積される仕組みになっています。海外に納入したエレベータでは、通信モデムとAWSを安全につなぐ通信としてIoT向けデータ通信サービスSORACOM Airが利用されています。

ソラコムでは、このシステムの開発に先立つ課題や背景などを、過去の導入事例記事で紹介しましたが、その後もフジテックは、システムのアップデートを重ねています。前回もインタビューにお答えいただいた常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏と同本部テクノロジー研究部長 小庵寺良剛氏の両名に詳しく聞きました。

データは単なる取得から活用へ。最新技術でシステムの利便性も向上

エレベータの遠隔監視システム関連で、大きく行われたアップデートは2つです。

ひとつは、「AIや機械学習を用いたログの分析」。遠隔監視システムから取得したデータをログとして蓄積するだけでなく、分析し、リアルタイムで故障や異常の原因予測を行って適切な対応に役立てたいと考えています。ベテランの技術者であればAIや機械学習に頼らずとも予測は可能ですが、それには数年にわたる現場での経験や鍛錬が必要です。この機能を拡充することで、経験の浅い若手でもベテランと同じように対応できるようになります。

この機能は2019年9月から稼働していますが、予測の精度にはまだ課題があります。そのため現時点(2021年9月時点)では、データの蓄積と同時に、故障が起きた部品や内容を分類して体系化し、予測精度の向上を目指しています。「データは蓄積されてきたので、これからは機械学習のいろいろな手法を試し、期待した精度が出せるよう検証していきたいと考えています。」(小庵寺氏)

もうひとつは「様々な情報を集約した統合システムの機能拡張」。各エレベータに紐づく営業情報や物件情報、遠隔監視システムから取得した保守データなど、様々な情報を集約し閲覧できるようにしました。

これは、既存の情報統合システムをGoogleマップとAPI連携させ、地図を入口に各エレベータの情報を追えるようにしたものです。以前は、現場が特定できる工事番号や工事日、エレベータの機種など、様々な条件から検索することで、各エレベータに紐づく情報が取得できましたが、Googleマップとの連携で、地図上から情報が探せるようになりました。さらに、エレベータの設置場所をアイコンで表示し、保守の状態によって色分けすることで、ひと目でそのエレベータが動いているのかわかるようにもなっています。

なお、後者のアップデートは、現場の要望を受けたものではなく、本部が提案したもの。本部のIT担当部署では、世の中に生まれる新しい技術やサービスにアンテナを張り、社内で活用できるものは積極的に取り入れようと考えているそうです。

物流や工場でもIoTの活用広がる

フジテックは、遠隔監視システムのほかに、物流においてもIoTの活用を進めています。

エレベータの部品の発送業務を担う物流倉庫では、現場ごとに仕分けされた部品と、それを載せたパレットの紐づけにIoTを使用しています。部品にバーコードを貼る代わりにRFIDという非接触型のスキャンシステムを導入することで、これまで一つずつバーコードを読み取って紐づけしていたところを一括で読み取れるようにして、手間を大幅に削減しました。

このスキャナーには、SORACOM IoT SIMを利用。倉庫内にはWi-Fiが飛んでいますが、敷地が広く不安定になる場所があるため、どこでも安定して使えるようにセルラー回線を利用したSIMの採用に至りました。

IoTの活用は工場でも進んでいます。工場では、完成品を専用の場所にまとめて配置し、そこに担当者が取りに行って作業場に運び、梱包作業を行います。梱包担当者は、この完成品置き場と梱包の作業場を1日数回往復していました。

さらなる効率化のため、完成品置き場を監視するカメラを設置。完成品が溜まったタイミングで適切に取りに行けるようにしたことで余分な手間を省き、生産が早く進んだ場合に完成品が置き場にあふれることも防ぐことができました。このカメラにも、SORACOMのIoT SIMを組み込んでいます。このシステムは、ソラコムのIoT体験キットによって、7日ほどで完成しました。

IoT活用の先に、フジテックが目指すものとは

エレベータという現物を扱っているからには、もちろん現場は大切です。しかし、そこにデジタルを絡めることによって、より品質の高いサービスの提供ができるようになります。たとえば遠隔監視システムであれば、エレベータの状態が遠隔で把握でき、現場でどのような対応をすべきかもあらかじめわかる状況をつくり出すことで、人間が行うオペレーションをできるだけ省力化しながら、保守の質を上げることができます。

フジテックがIoTの活用を様々なシーンで進める背景には、会社全体でDXを進めることで、現実と同じ環境をデジタル上に再現する「デジタルツイン」をつくり出し、そこで量的な意思決定をシステムに任せたいという狙いがあります。量的な意思決定とは、経験やデータがあれば誰でも同じ判断を下すことのできる、正解のある意思決定のこと。IoTは、それに必要なデータを収集するために活用されます。

ここをシステムに任せられれば、人間は、将来のリスクも鑑みたうえで、どのようにリスクを取りながら挑戦していくかという、正解のない意思決定に注力することができます。「IoTやデジタルを最大限活用することで、人間が本来発揮すべき能力の領域で時間を存分に使えるようにしたいと思っています。そうすることで、より精度の高い意思決定をスピーディーに行い、企業としての競争力を高めていきたいと考えています。」(友岡氏)

フジテック株式会社

フジテック株式会社

常務執行役員 デジタルイノベーション本部長
友岡 賢二氏

デジタルイノベーション本部 テクノロジー研究部長
小庵寺 良剛氏

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