IoT導入の背景/課題

人手で行っていた養殖魚の餌やりをAIIoTで自動化・遠隔操作

ウミトロン株式会社(以下、ウミトロン)では、AIとIoTの活用で養殖魚の餌やりを遠隔操作、最適化するスマート自動給餌機「UMITRON CELL(ウミトロンセル)」を開発、提供しています。同製品は、水産養殖業が抱える課題を解決するために開発されました。

水産養殖業では、魚への餌やりについて「コスト」「労働環境」「環境負荷」の3つの観点から課題を抱えていました。1つ目の「コスト」については、生産コストに占める餌代の割合が大きなネックとなっていました。直近の15年で餌代が3倍ほどに値上がりした2023年現在、養殖魚の生産コストの約6-7割を餌代が占めています。このような背景から、近年は餌を効率よく与えて無駄をなるべく減らしたいというニーズがありました。

2つ目の「労働環境」については、生き物を相手にした仕事という性質上、水産養殖業の従事者は休みが取りづらいという状況がありました。土日も餌やりのために海に出なければならず、もし赤潮などの魚の生死にかかわる緊急事態が発生すれば、たとえ自宅でくつろいでいる時間であろうと、すぐに対応しなければなりません。また、多ければ1日に複数回餌やりも行うので、体力的にも時間的にも大きな負担がかかります。すぐに海に出ることが難しい体制の養殖場では、1日1回しか餌やりができず、魚の成長が思わしくないといった状況も発生していました。

3つ目の「環境負荷」は、魚が食べずに余った餌が海を汚してしまうという問題でした。人手で餌やりを行う場合、魚の食欲に合わせて量を調節することが難しいため、どうしても海に流出してしまう餌が発生してしまいます。

実現したサービス

UMITRON CELLは、これらの課題を解決できます。まず、筐体の中に300kgほどの餌を備蓄して生簀の上に設置し、給餌時間をスマホアプリなどから設定することで、自動で魚に餌を与えることができます。また、付属する水上カメラで魚を撮影することで、餌やりの様子をスマホやPCからリアルタイムでモニタリング可能です。撮影した動画や画像をAIで解析し、魚の食欲に合わせて餌の量を自動で調節することもできます。さらには、「いつ、どのくらいの量の給餌をしたか」といったデータも蓄積可能です。赤潮発生時には、海中の酸素濃度が下がるため、魚を安静な状態にして窒息死を防ぐオペレーションが必要ですが、そうした事態にも給餌を遠隔操作で止めることによって対応可能です。

海外進出やセキュアな遠隔操作を目指す中で生じた、通信の課題

UMITRON CELLの開発にあたっては、プロダクト、ユーザー、ウミトロン間での通信など、課題が大きく3つ生じていました。

1つ目が、ウミトロン社内の人的リソースが限られているため、プロダクトのオペレーションをなるべく自動化したいという課題でした。UMITRON CELLはAmazon のクラウドサービス Amazon Web Services(以下AWS)を使用して開発しており、そのためAWSに親和性のあるIoTサービスを求めていました。

2つ目は海外における通信の課題です。水産養殖業の抱える課題は世界共通のため、ウミトロンは当初からグローバル市場を見据えており、世界で使用可能な通信回線を探していました。また、各国の通信事情によっては現地の通信回線を使用するシーンも発生します。その際は管理、開発コストが大きくかかるため、「可能な限り1つのプラットフォームで管理を完結させることができれば」と考えていました。

3つ目の課題は、プロダクトの遠隔操作に際して、オープンに開かれたインターネット空間を介さない通信の仕組みづくりが困難だったことでした。遠隔操作にあたっては、セキュリティの観点からインターネット通信ではなく、インターネットに接続していないネットワーク(閉域網)の構築が必須です。しかし、それらを実現させるためのデバイス内のソフトウェアの起動がうまくいかず、デバイスやプロダクトは正常なのにもかかわらずリモートアクセスができず、遠隔メンテナンスが難しくなる事態も発生していました。

SORACOMのセルラー通信や閉域サービスを活用し、海外でも利用可能な製品を開発

UMITRON CELLでは、上述の課題に対応するため、SORACOMのグローバル通信サービスを採用し、日本と同じシステムを海外展開できるようにしています。海外では実際に、ペルーとボリビアの国境にあるチチカカ湖のサーモン養殖場で導入されています。

遠隔操作の仕組みにもSORACOMのサービスを利用しています。デバイスとAWSを閉域網で接続し、遠隔操作を実現しています。

さらに、近海ではWi-Fiを使うケースもあるため、セルラー通信とWi-Fiの通信をSORACOMにとりまとめ、同じシステムに連携できるようにしました。これにより、通信毎に別のシステムを開発することなく、効率的に運用できるようになりました。

ウミトロン共同創業者 取締役 CTOの岡本拓磨氏はSORACOMを導入したメリットについて、このように語っています。「SORACOMはAPI連携がしやすく、AWSとの親和性も高い点が気に入っています。IoTプロダクトをつくる上で欲しい機能があったとき、SORACOMを探せば必ずソリューションが見つかるのも、本当に助かっていますね。ユーザーの要望をしっかりとヒアリングして、機能開発をしてくれているのだろうと感じています」

養殖期間を最大4か月短縮でき、餌の量も20%削減。養殖魚の安定供給へ

水産養殖業を営むユーザーは、それぞれのニーズに合わせた使い方でUMITRON CELLを利用しています。同製品の自動化を大きく活用し、餌やりの完全自動化で業務負担を減らしたところもあれば、遠隔操作を特に活かし、自分たちでモニタリングしながら、餌やりを効率化したところもあります。

ウミトロンが取得したデータによると、餌やりの効率化で無駄な餌を20%減らし、また、少ない餌でより早く魚を育てることもできるようになりました。魚種によって成長速度は異なりますが、1kgの魚を育てるために最大で2~4か月ほど期間を短縮できたというデータも出ています。養殖の効率化ができれば、1年を通じて育てられる魚の全体量も増やすことができます。

さらに、餌やりの自動化は、品質安定化にもつながっています。これまでは大きい魚ばかりが餌を食べていましたが、小さな魚にも餌が行きわたるようになりました。これにより、個体間の大きさのばらつきが減り、安定した品質の魚を供給しやすくなっています。これらの成果は、水産養殖業の収益安定化にもつながると考えられます。

今後のサービス展開について

IoTで水産養殖業を最適化し、養殖魚を食べることが当たり前の未来をつくる

UMITRON CELLのユーザー数は現在、世界中で拡大を続けています。それに伴って顧客の目的やネットワーク環境も多様化してきており、さまざまなケースに対してプロダクトを提供できるよう、SORACOMを活用しながら準備を進めていきたいと考えています。また、稼働しているプロダクトの数が増加したことで、ウミトロン側のオペレーションをさらに効率化する必要も出てきました。そのため、今後はAPI連携なども行いながら、プロダクトの改修や調整ができるようなオペレーションの自動化を目指しています。

そしていずれ、養殖魚を食べることが当たり前になるような未来を実現させていきたいと考えています。昨今、人口増加と中間所得層の拡大によって、動物性たんぱく質への需要がアジアを中心に世界で急増しています。その流れの中で魚のニーズも高まっていますが、天然の水産資源は減少の一途をたどっています。自然の魚を獲るばかりでは、海の資源回復量が追いつかず、魚が食べられなくなる日も来てしまうかもしれません。農業や畜産業のように、魚も必要な分を自分たちで育てていくことが強く求められています。

水産養殖業は農業などと比べるとまだ歴史の浅い産業です。だからこそ、IoTなどのテクノロジーを使いながら生産の最適化ができる余地が残されていると考えられます。

「水産養殖業には、IT活用も含めた近代化が遅れている部分が多くあります。世界にはまだ、マンパワーをかけて養殖を行っている国も少なくありません。UMITRON CELLなどのプロダクトをもとに、水産養殖業を『労働者の負担』『不安定な収益』『環境負荷』の問題から解放された産業へと発展させていきたいです」(岡本氏)

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