IoT導入の背景/課題

野生イノシシの捕獲時のわなの見回りを効率化する必要性

群馬県は県土面積の3分の2が森林であり、関東地方において最も自然が豊かな県のひとつです。森林内にはイノシシやシカなどの野生動物が暮らしています。しかし、農地に侵入した野生動物が農作物を荒らすなどの鳥獣被害が深刻化しており、防除や捕獲などの被害対策に取り組んでいます。

近年、日本国内で豚熱(CSF)の発生が確認されています。豚熱は豚やイノシシが感染する病気で、強い伝染力と高い致死率が特徴です。人に感染することはありませんが、発生した場合の養豚業への影響が甚大であることから、家畜伝染病予防法の中で家畜伝染病に指定されています。

群馬県は、養豚場での豚熱の発生を防止するため、感染源となる野生イノシシの捕獲対策を強化しています。野生イノシシの捕獲は、狩猟のほか市町村の有害捕獲で実施されます。わなによる捕獲の場合、設置したわなを毎日見回り、捕獲状況を確認する必要があります。確実に捕獲する上で見回りは重要ですが、20-30箇所を見回ることもあり、時間と労力のかかる作業となります。

そこでIoT機器を活用し、イノシシ等の野生動物を捕獲すると通知が来る装置を導入することで、捕獲従事者の労力を軽減し、見回りの効率化をはかる方法について検討を始めました。

群馬県にはデジタル化を要する案件の企画・実施を支援する「デジタルトランスフォーメーション戦略課」という部署があります。本プロジェクトは、この部署が主導して実現方法の検討が始まり、IoT機器の製作の段階からは、実際の運用を担当する農政部 鳥獣被害対策支援センターも加わって、部署を横断するチームで進められました。

導入されたサービスについて

わな作動通報装置を自分達で製作、その仕組みと方法

IoT機器の選定のポイントは、ITに詳しくない捕獲担当者でも簡単に設置できること、そしてリーズナブルな価格で利用できることでした。

ソラコムに問い合わせたところ、「SORACOM LTE-M Button Plus」という単四乾電池2本をセットすれば動くボタン型のIoT機器を紹介されました。横幅9.7cm、縦3.5cmという手のひらサイズの大きさで、スマートフォンと同じモバイル通信が搭載されています。省電力が特徴のLTE-Mという通信規格に対応しているので、月に数回の通信であれば電池交換なしで1年間使うことができます。

このIoT機器を野生動物の捕獲通報に活用する研究が、既に群馬県林業試験場で行われていたので、試験場と共同で「わな作動通報装置」の実用化に取り組むことにしました。

完成した「わな作動通報装置」は、「SORACOM LTE-M Button Plus」にマグネットセンサーを取り付けたものです。さらに、屋外で使用するために防水の塩化ビニール管に収納し、目立たない形状にするなどの工夫が施されています。また、汎用部品を組み合わせて製作できるので、材料費を低く抑えることができます。

わなを設置する際は、この通報装置とくくりわなのワイヤーを紐でつなぎます。獲物がかかって紐が引っ張られると、装置内のマグネットが外れて通報されます。捕獲担当者の携帯電話にメールで即座に通報されるので、現地に行かなくても捕獲を把握できます。

群馬県では、現地で取り付けて試しながら、野生動物に気づかれにくい設置場所など、よりよい設置方法や通信状況の確認方法などのノウハウを蓄積し、その気づきを元に設置マニュアルを作成しました。また、捕獲実施者が自ら「わな作動通報装置」を製作できるよう、製作マニュアルも作成しました。

本プロジェクトは2021年4月に立ち上がり、6月から7月にかけて「わな作動通報装置」を製作、8月からは特に養豚農家の多い6市で実証実験をスタートしました。IoT活用の企画・開発期間はわずか5ヶ月と、ソラコムのIoT機器を利用することで短期間でIoT活用を実現しています。

「わな作動通報装置」のメール通知の仕組みには、SORACOM Funkというクラウド連携サービスを利用しています。鳥獣害対策支援センターの白川氏は当時を振り返って次のように話します。「私は農政の仕事に長く従事してきて、このようなIoT機器の製作を学ぶのは初めてでしたが、通報装置を製作してみた時は、”こんなに簡単に通信できるのか”と驚きました。IoTプラットフォームSORACOMでは、通信の開始や休止などの管理、メール通知の連携などが管理画面から設定できます。私でもできたので、難しいとあきらめずにまずは試してみることが大事だと思います」

今後の展開について

IoT機器を使った見回り効率化を根付かせていきたい

初年度の実証実験は、使って試してもらうことを目的に80個を農政部でセットアップし、市町村に配布しました。年度末の利用者へのヒアリングでは、「簡単に設置できた」、「見回りの手間が減らせた」、「使い続けたい」という回答を多く得ています。

2年目となる本年は、「わな作動通報装置」の製作を市町村の捕獲担当者とともに行う予定です。群馬県主導で始まったIoTの取り組みですが、徐々に市町村や捕獲担当者も製作できるようにすることで、IoT機器を使った見回りの効率化や、デジタル活用を根付かせていきたいという思いがあります。

「日本全国には鳥獣被害に悩まされている地域が多数あります。同様の鳥獣害対策を検討されている方にも、この経験を共有していければ」と白川氏は語ります。

群馬県

群馬県

農政部 鳥獣被害対策支援センター
白川 博 氏

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