自社のセンサ技術を活かし、水害対策のIoTを発想

主に工場向けセンサの開発製造を行ってきた亀岡電子株式会社(以下、亀岡電子)は、防災用途として2021年3月にセルラー通信式浸水検知センサ「KAMEKER3」を発売しました。

KAMEKER3は、その場の浸水をいち早く検知して、LINEで知らせる機能を持ったIoTデバイスです。近年は、台風や豪雨などの影響によって日本全国で水害が多発しているため、自治体からの需要が高まっており、実証実験も含めてすでに8つの自治体に採用されています。

このアイデアは、「水を知る水を知らせる」「センサ技術で安心安全な社会づくりに貢献する」という2つの言葉を掲げてKAMEKER SENSINGという新しいブランドを立ち上げた亀岡電子が、新規事業を立ち上げようと考えて生まれたもの。いろいろな事業案が出た中で、過去に台風による大雨を経験したことから、水害対策のために浸水を検知するセンサをつくろうと着想を得ました。

離れた場所の浸水も検知できるデバイスを探す中、SORACOMに着目

最初につくったのは、センサ部に水が接すると受信機が「ワンワン」という犬の鳴き声を模した音で知らせる「ワンワンセンサー」。これは、家の外壁などにセンサを設置する想定で、20メートルほど離れた場所に信号を送るよう、無線通信を使用して設計されました。

これを亀岡電子の位置する京都府の中でも特に水害の多い福知山市に持っていき、自治体や住民の声を聞いたところ、「そんなに近くに水が来てからでは遅い」という声が。そこで、遠い場所からでも通知を受け取れるよう、インターネットを利用した設計を考えました。

その際に候補として挙がったのが、ソラコムが提供するIoTボタン SORACOM LTE-M Button Plusでした。「ソラコムについては、もともとIoTに特化した通信が得意な会社だという認識があり、デバイスをつくっていることも知っていたので、一度買って試してみようと思いました。通信費が安いというのも魅力でしたね。」と、商品開発部の澤田晃仁氏は振り返ります。

同時に、IoTデバイスからデータを受け取ってダッシュボード化するSORACOM Lagoonも使ってみることにしました。SORACOM Lagoonには、センサが検知したときにLINEを通じて通知する機能が付いています。澤田氏は、この機能も気に入ったといいます。「防災向けセンサの中で検知時にメールで知らせるものはありますが、調べた限りLINE通知するものはほかにありませんでした。今の時代はメールよりも、LINEの方が気づきやすい。特に緊急時ならLINEがいいだろうと思って、取り入れることにしました。」

プロトタイプは、既存サービスを利用して1か月で開発

ワンワンセンサーを大きく改良した形で生まれたKAMEKER3は、他社から調達したセンサと、すぐにダッシュボード化できるSORACOM Lagoonによって、約1か月という速さで開発されました。その後、1年かけて自社製のセンサとAWSのサーバーを使用した新たなインターフェースを開発し、現在のシステムの形になりました。

このインターフェースは、SORACOM Lagoonで8か月ほど実証実験を行って蓄積した知見から、KAMEKER3を商品として広く展開するうえで、ダッシュボードのデザインやセンサの登録台数、LINE通知の詳細設計などに自社サービスならではのアレンジを加えたいと考え、開発に至ったそうです。

現在のシステム構造では、センサが浸水を検知するとボタンが自動で押され、LINEで通知されます。LINE通知は頻繁に届くとわずらわしく感じられることもあるため、たとえば5分以内に5回通知があったら通知を停止するといったように、細かな設定ができるようにしました。

また、市販の乾電池で2年以上稼働することもKAMEKER3の大きな特長です。電源をつなぐ場合は、停電や配線切断による故障の心配があり、ソーラーを設置する場合は工事を必要とします。しかし、乾電池であれば故障リスクが低く、工事も必要としないため設置工事費も抑えられます。

福知山市が実証実験に協力。安価にたくさん導入できることもメリット

KAMEKER3を開発してすぐに実証実験に協力した福知山市は、2013年からの5年間で4回もの水害に見舞われ、甚大な被害を受けました。その中で、住民には毎回避難指示等の避難情報を出すものの、なかなか実際の避難につながらないということが課題視されてきました。

その課題の背景には、災害時には、広域的で数多くの避難情報や気象情報が発信されるため、住民はそれが自分にとってどれほど関係がある情報なのかを理解できず、結果的に避難行動につながらないといったことがあります。その一方で、避難した人は目の前に災害の危険が迫ってきたことを実感して避難したというケースが多くありました。

そこで、実証実験の提案を受けた福知山市 危機管理室の高橋和利氏は、各地域の住民が「ここまで水が迫れば危険だ」と思うところにセンサを付けられれば、自分事として捉えてもらうことができ、避難につなげられると考えました。「実は、実証実験のお話を聞く2日ほど前にワンワンセンサーの新聞記事を読んで、興味を持っていたんです。そういったタイミングもあって、とんとん拍子で進んでいきました。」(高橋氏)

近年の福知山市では、市内を流れる一級河川の由良川沿岸地域における内水被害が多く見られています。内水被害とは、河川の水が増えた際に市街地への逆流を防ぐ目的で水門を閉めたはいいものの、河川に水が排水できず、堤防の内側に雨水が溜まってあふれてしまうこと。堤防が決壊して水害に至る外水被害の対策には従来から水位計が用いられていますが、それを内水にも活用しようとすると、大きなコストがかかります。「しかし、KAMEKER3の導入コストは、水位計1台の予算でKAMEKER3が20台取り付けられるというほど安価。ランニングコストも1台当たり年間数千円程度と水位計よりも安いので、数を導入できることもメリットでした」と高橋氏。そこで、KAMEKER3を内水被害の検知のために活用することにしました。

2019年7月の実証実験開始から約2年。2021年9月の取材時点では、KAMEKER3の設置が18箇所にまで拡大しました。2021年内にはさらに20箇所増やす予定となっています。「ここまで拡大した理由には、LINEでの通知が地域にとってかなり有効だったということがあります。というのも、福知山市の各地域では、以前からLINEグループで地域連携が取られていました。そのため、地域の代表者がKAMEKER3のセンサ情報を受け取り、地域のグループに展開するという流れが自然にできたんです」(高橋氏)

今後は、KAMEKER3が設置されている場所だけでなく、KAMEKER3から得られる情報を連携させることで、面的に浸水状況を把握することを目指しているとのことでした。

様々な自治体に、多様な活用法で導入広がる

KAMEKER3の導入は、福知山市のほかにも、兵庫県南あわじ市や加古川市、愛知県豊田市など、水害に見舞われた経験のある自治体で広がりつつあります。活用方法も、大型のセンサが付けられない地上での設置や、冠水しやすい道路での利用など様々です。

導入先の自治体からは、水位がモニタリングできる機能もほしいという要望も聞かれています。「今は、土砂災害を検知するためのセンサの開発もスタートしていて、そのセンサを応用すれば、水位のモニタリングも同時にできるようになります。ゆくゆくは、KAMEKER3で取得した情報と、土砂災害検知、水位モニタリングの情報を同じ画面に表示できるようにするなど、機能を充実させていきたいと考えています。」(澤田氏)

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