IoT 導入の背景

検針業務など、人で行っていた様々な業務をデジタル化

ニチガス・二・スルーノ三世のCMでも有名なニチガスこと日本瓦斯株式会社(以下、ニチガス)は、ガスメーターをオンライン化するIoTデバイス「スペース蛍」を開発しました。スペース蛍は2021年3月までに約85万の需要家に設置される予定です。2020年2月より設置を開始し、2020年6月10日現在で既に15万3千件の需要家に設置されました。コロナウイルスの影響で2か月以上設置作業が止まったことを考えると、実質2か月で15万件という驚異的なスピードで設置が進んでいます。スペース蛍は1時間に1回ガス利用データを取得します。また、前日に取得した24回分のガス利用データ及びガスメーターが検知した保安データを、翌日にまとめて送信することができます。

また、需要家の入退去に伴うメーターの開閉作業についても、現地に担当者が行くことなく遠隔かつ自動で行う機能も開発されています。ニチガスはスペース蛍によってガスメーターをオンライン化させ、自動検針のみならず、保安の高度化・遠隔でのメーター自動開閉・配送の効率化にも取り組んでいます。

ニチガスは東京に本社を構え、LPガス、都市ガスおよび電気も扱う総合エネルギー事業者です。主要事業であるLPガス事業は一般的に、ビジネス運営に必要なガスの製造・配送・保安・請求・お客様窓口といった業務を他社に委託します。しかし、ニチガスではお客様により良いサービスを提供したいという想いから、これら一連の業務をすべて自社で対応しています。人手を介した業務も多く、特に検針や配送はお客様の利便性に直結する業務であり、効率化がLPガス業界全体としての課題でした。

IoT 導入の課題

ガスメーターをオンライン化するデバイスを自社開発

通常LPガスは需要家宅にLPガスボンベが2本設置されます。今までの検針業務は、検針員が需要家宅を月に1度訪問しガスメーターを確認していました。そのため気候の変化などにより想定以上のガスが利用されるとガス欠が発生してしまうリスクがあり、常に余裕を持って1本ずつ早めの交換を必要としていました。これらの課題を解決するためには、検針業務を自動化させて需要家毎のガス利用量をリアルタイムで把握し、需要家ニーズに合わせたオンデマンド配送を可能にする必要があり、2017年にガスメーターの自動検針を目指すプロジェクトが始まりました。

最初はセルラー通信(LTE)のプロトタイプを開発したものの、消費電力が大きく通信コストも負担が大きいものでした。またセルラー通信は電源を必要とするため、屋外に設置されているガスメーターへの設置は困難と判断し本格導入には至りませんでした。消費電力が小さく電池での稼働を可能とするLPWA(Low Power Wide Area)通信の検討がはじまり、他社製品の活用を含む様々な検討が続きました。そんな中、消費電力が小さく通信コストも抑えられ、通信エリアの人口カバー率も拡大してきていたSigfoxに注目しました。当時、Sigfox通信に対応したデバイスは少なく、Sigfox通信を可能にするデバイスを自社開発した上で、自社需要家の約1万件を対象に実証実験を開始しました。

この実証実験で検針値を取得する事には成功しましたが、ここで新たな課題に直面します。デバイスの設置時間です。すべての需要家に対して一気に導入しなければ、導入効果を得られないと判断し、短期間ですべてのガスメーターをオンライン化するために設置時間の短縮にも取り組みました。これらの課題を一つずつ解決しながら開発したデバイスが「スペース蛍」です。結果として、デバイス本体のコスト・通信コスト・設置時間が短いことによる設置コストの圧縮などあらゆるコストをそぎ落とすことに成功しました。低コストに加え、自動検針・保安の高度化・ガスメーターの自動開閉・配送の効率化など、エネルギー事業者にとって必要な機能を搭載した最適なデバイス開発に成功しました。

SORACOMが選ばれた理由

複数の通信規格をひとつのシステムに連携、カバレッジを確保

ニチガスでは需要家宅のガスメーターに取り付けられたスペース蛍が取得する、1時間毎のガス利用データ(24個)およびそれに付随するデータを、データ道の駅というクラウド基盤に集約しています。しかし、一つの通信規格だけでは全ての需要家をカバーすることは難しいため、Sigfoxに加えてLPWAの一つであるLTE-Mも利用することを視野に入れています。

プロジェクト責任者の松田氏はSORACOMを採用した理由を次のように述べます。
「今後は配送車の位置情報なども取得するため、様々な通信規格を採用していく必要があります。その上で、SORACOMは複数のLPWAN規格と複数のセルラー通信規格が利用できる点を評価し採用しました。複数の通信規格が選べることは選択肢を広げ、私達のサービスのカバレッジを広げます。」

また、SORACOMサービスはIoTシステム構築の工程短縮にも貢献しました。デバイスの消費電力をより低消費にするためには、通信規格だけではなく送るデータサイズと通信プロトコルを簡素化する必要があります。スペース蛍からは暗号化されていない簡素な通信プロトコルで通信を行い、SORACOM Funnleを利用し暗号化されたプロトコル通信でデータ道の駅に連携しています。加えて、バイナリ形式のデータをSORACOMプラットフォーム上でJSON形式に整形する「バイナリーパーサー機能」も利用しています。SORACOMサービスを組み合わせることで、自社開発の手間を削減しシンプルなデバイスとスピーディーな開発を実現しています。

システム構成図

導入の効果

オンデマンド配送を実現することで物流コスト3割削減

ニチガスは2019年7月に「スペース蛍」を発表しました。前述の通りスペース蛍は、前日1時間毎のガス利用データ(24個)を、毎日送信します。以前の月に1度の検針と比較すると、720倍のデータが取得できる計算です。本デバイスは、設置してから10年間電力供給なしでの稼働が可能です。2021年3月までにLPガスをご契約のお客様85万件へ設置完了を予定しています。

LPガスボンベは各需要家宅に2本設置されます。前述の通りスペース蛍からリアルタイムなデータを取得できるようになれば全数交換(2本交換)が可能になります。また、配送ルートの最適化等も取り組んでおり、スペース蛍のデータにより最適なルートで配送を行う事で人手や配送者数が効率化され、最終的には物流コストを30%削減可能と考えています。

今後の展開について

エネルギー業界のデータプラットフォーム企業を目指して

ニチガスではスペース蛍を含めLPガス事業で充填基地から需要家までの物流をIoT化により最適化する「配送4.0」プロジェクトを推進しています。神奈川県川崎市に建設中の世界最大級のハブ充填基地「夢の絆・川崎」では最先端のICT・IoT技術を採り入れ、完全無人オペレーションを目指しています。

エネルギー事業における、製造・卸・販売・保安・配送すべての業務を自社でオペレーションするニチガスだからこそ、率先してデジタル化に取り組んでいく意味があると松田氏は言います。「同じようにフィールドワーカー不足の問題を抱える他のエネルギー企業や、宅配事業会社といった企業とも協業し配送最適化に取り組むことも可能でしょう。」(松田氏)

エネルギー業界における大きなマイルストーンとなる導管分離が2022年に予定されています。これにより、より一層エネルギー業界への新規参入企業も増えることが予想されます。

プロジェクトリーダーの岩村氏は今後のエネルギー会社のあるべき姿について次のように予想します。「AirBnBやUberは、サービスに必要となる設備を持っていない企業がサービス提供企業になる可能性を示しました。将来的にはエネルギー業界においても、製造や供給する設備を持っていない企業が新規参入する可能性があります。そんな時代にニチガスができることとは何かを考えています。」

ニチガスはエネルギー業界の進化を見据えて、エネルギー業界におけるプラットフォーム企業となるべく歩んでいます。

なお、スペース蛍の導入・利用に関するお問い合わせは、こちら よりお問い合わせ下さい。

日本瓦斯株式会社

日本瓦斯株式会社

執行役員 エネルギー事業本部
情報通信技術部 部長 松田 祐毅氏
エネルギー事業本部 エネルギー供給部
資財調達課 上席課長 岩村 健司氏

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