秒間隔のリアルタイム位置情報で、ウインドサーフィン観戦を盛り上げたい

2019年に創業したN-Sports tracking Lab合同会社は、精度の高い位置情報を秒間隔でリアルタイムにトラッキングして表示するサービス「HAWKCAST」を展開しています。

主にウインドサーフィンなどの水上スポーツの大会で活用されており、選手一人ひとりに位置情報を取得するデバイスを装着してもらい、そのデータをリアルタイムに収集し、会場の大型モニターにレース状況として映し出します。レースは陸から1kmほど離れた沖合で行われ、肉眼では展開がわかりにくいことから、HAWKCASTの活用で観戦を盛り上げることを目指しています。

そもそもサービスを立ち上げるきっかけは、2016年に、自身もウインドサーフィンのアマチュア選手である代表社員CEOの横井愼也氏が、練習時の参考のために位置情報やセンサー情報を使ってスピードや乗り方をセンシングしようと、IoTとの連携を開発したこと。エンジニアでもある横井氏がケガで競技に出られなくなり、家にいながら上達できる方法がないかと考えて、帆の動きやスピード、針路などのデータを可視化するアプリも含めて、3日で制作しました。

これらのデータは、全選手分を集約して見せ方を変えれば、観戦用として活用できます。ウインドサーフィンは、これまでは競うことに重きを置いて大会が運営されてきたため、観戦されることにあまり意識が向けられてきませんでした。

しかし、ワールドカップ大会が神奈川県横須賀市で毎年開催されているということもあり、「私も一人のウインドサーファーとして、初めて訪れる観客のみなさんにもレースをできるだけわかりやすくして、この大会を盛り上げたいと思いました。」と横井氏。そこで、当時在籍していた大手IT企業内でプロジェクトを立ち上げ、HAWKCASTの前身となるプロトタイプシステム(GULLCAST)を企画・開発しました。

全選手につけたセンサーからリアルタイムに大量のデータを送信したい

前身のプロトタイプシステムで手応えをつかみ、新たにシステムを一新してHAWKCASTへ進化させていきます。そこで目指したのは、位置情報を秒単位でクラウドに送ることで、目の前で起きているレースの状況を、可能な限り遅延がない形でスクリーンや観戦用アプリを通して観客に届けることでした。

選手に装着したデバイスから送られてくる秒単位の膨大なデータをリアルタイムに受け取り、タイムラグなく観戦用アプリで再現する仕組みについて、横井氏はこう振り返ります。「遅延なくデータを送りながら、きちんとデータも保持する仕組みをつくるのに非常に苦労しました。そのような用途に適したデバイスも当時はなく、ハードも手掛けました。今思えば、あまりに無謀なことをやっていたんだなと思います。」

大きな挑戦でありながらも、システム自体は2~3カ月という短期間でできあがりました。その背景には、前述の通り、エンジニアである横井氏自身が、同時に選手でもあることが関係しています。「システム開発で一番大変なのはテストですが、選手に協力してもらうと、調整に時間がかかってしまう。その点、私の場合は日中は自分でテストをし、帰宅してプログラムを手直しするというサイクルが一人で完結できたことが大きかったです。」(横井氏)

リアルタイムにデータを送るにあたって、通信にはソラコムのサービスを採用しました。「ソラコムのことはニュースで見て知っていて、大規模な投資やハードウェアが必要とされていた通信事業を、クラウドを使いソフトウェアで実現するという、当時からすごいことをやっている人たちだという印象がありました。非常に技術のある会社なので、これからも二歩先、三歩先を行くものを先回りして提供してくれるだろうと、期待を込めて選びました。とにかくソラコムを使っておけば安心だと勝手に思っていたので、他社と比較することすら考えつきませんでした。」(横井氏)

システム完成後も観戦のニーズに応えて進化

こうして開発したHAWKCASTは、その後も進化を続けてきました。たとえば、ウインドサーフィンでは海上にスタートラインやゴールラインを引けない代わりに、海上の船とブイをつなぐ仮想の直線をラインとします。しかし着順は、ほとんど陸には伝わりませんでした。そこで、バーチャルの海上にラインを引くことによって、順位やタイムを計測できるようにし、よりレース状況が伝わりやすくなるようにしました。

また、位置情報の精度にも磨きをかけました。GPSはアメリカの人工衛星であることから日本での利用に最適化されておらず、最大30mほどのずれが生じることもあります。しかしそれでは、実際の選手が描く軌道とバーチャル映像の軌道がずれ、実際にはブイを回っているはずなのにバーチャル上では回っていないことになってしまっているといったことがありました。

そこで、GPSの情報に加え日本の衛星測位システム「みちびき」を採用。みちびきは常に日本の真上に来るよう軌道が計算されているため、位置情報の誤差が少なくなり、高精度なレース中継が実現しました。

大会運営の意識までを変えたリアルタイムトラッキング

2021年に行われた国際セーリングイベントでは、イベントの運営サポートの面でも位置情報が活用されました。各選手に対しコーチも必ず1艇、船を出す必要がありますが、日本では船舶免許がなければ運転できないルールになっています。そこで、イベント開催期間のみ、海上保安庁との取り決めで、決められた区域内であれば免許がなくても運転できることとなり、リアルタイムの位置情報のトラッキングで、指定区域を出そうになった船があれば抑止するという役割を担いました。

ワールドカップでは、「競技を行うだけでなく、きちんと集客をしてイベントとして盛り上げようという意識に変わってきたと感じています。」と横井氏。観客数も最初は3万人だったのが、次に4万人、さらにその次は8万人と増加しました。現在は、選手を自動で追尾するドローンの開発にも着手し、より臨場感のある観戦スタイルの実現を目指しています。

選手のスキルアップだけでなくスポーツの枠を超えた、幅広い展開へ

今後は取得したデータを分析し、その結果を選手にフィードバックして、競技をサポートしていきたいと考えています。「F1はすでにデータで戦う世界になっていますが、水上のF1と言われるウインドサーフィンもそうなっていくだろうと。そのために、まずは自分が選手兼エンジニアとして、データを使って技術を上げる方法を確立していきたい。自分が速くなれば、それが一番のエビデンスになるでしょう。」(横井氏)

HAWKCASTの利用可能性はウインドサーフィンに留まらず、海のマラソンSUPレースでもワールドカップに採用、ボート競技では早慶レガッタでも採用されました。陸上スポーツでもマラソン大会や山岳スポーツなどからも問い合わせがあったりと、様々なスポーツで注目され始めています。スポーツ以外にも、分単位での位置情報では把握しきれない、トラックの詳細なルートログなどを取得したいなど、活用が期待されています。横井氏は、「リアルタイムの位置情報の把握には幅広いニーズがあると感じているので、スポーツイベントに限らず、いろいろな展開を考えていきたいです。」と展望を語りました。

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