IoT導入の背景/課題

日々変わる在庫状況を正確に把握し、商品の購入をもっと便利に

株式会社エスマット(以下、エスマット)は「モノの流れを超スマートに」というビジョンを掲げ、在庫管理・発注を自動化するIoTサービス「SmartMat Cloud(スマートマットクラウド)」を提供しています。

これは、同社が開発した在庫管理専用のIoT重量計「スマートマット」を使用したサービスで、マットの上にある物品の重さを計測し、在庫状況や消費に関するデータをクラウドに自動で送信します。ユーザーはパソコンやスマートフォンなどの端末から、データをリアルタイムに確認できます。在庫が減少した際にメールで通知を送れるほか、残数の最低値を登録しておくことで自動発注も可能。例えば、ネジの在庫が100個を切った場合、メールで新しいものを200個発注するといった業務を自動化できます。ネジのような形のはっきりした物だけでなく、人の目では残量を把握するのが難しい液体や粉などの在庫管理も可能です。

製造業や医療機関、飲食店などで使用されることが多いというSmartMat Cloud。もともとは、代表取締役 林 英俊氏の「個人の買い物体験をさらに便利なものにしたい」という想いからスタートしています。林氏は以前、インターネット通販企業に勤めており、「日々変わる生活用品の使用状況を正確に把握して、最適なタイミングで商品を届けられないか」と考えたことで、スマートマットのアイデアにたどり着き、起業しました。同サービスはメーカーや飲食店、医療機関、美容院などが抱えていた「在庫管理に膨大な人手と時間がかかる」という課題とマッチ。企業の在庫管理や発注を自動化するサービスとして展開されることになり、2022年12月現在、約800社で4万台以上使用されています。

Wi-Fi対応のスマートマットに生じた3つの課題

スマートマットは当初、Wi-Fiのみに対応していました。しかし、様々な業界、ユーザーにサービスをお使いいただく中で、Wi-Fi版では対応できていない課題が明らかになりました。

1つ目は、そもそもネットワーク環境をユーザー自身で用意する必要がある点です。ITの専門家がいないような業態にも拡大するにつれ、在庫を管理したい場所の通信環境の確認やWi-Fiのセキュリティ設定、デバイスごとのSSID設定など、通信設定が導入の障壁となることがありました。

2つ目は、大量導入や多拠点での遠隔監視に対応しづらい点です。企業によっては、スマートマットを1,000台ほど導入したいというニーズもありました。このようなケースでは、大量の端末で個別にWi-Fiの設定を行うのは手間になります。また、商社や卸売業者が顧客の在庫管理を代理で行うなど、多拠点で在庫を遠隔監視したい場合は、顧客のWi-Fiを利用することが難しい状況がありました。

3つ目は、Wi-Fiのモニタリングの難しさです。在庫の推移変化や、どれくらいの量の在庫をいつ消費したのかという情報は、今後の経営に役立つ重要なデータです。これらが欠損しないためには、ネットワーク状況を監視し、安定した通信環境を構築することが求められていました。

実現したサービス

Wi-Fi対応サービスをさらに使いやすく。SORACOMのセルラー通信を採用したIoTデバイス「スマートマットSIM」を開発

Wi-Fiを利用したスマートマットの課題を解決するために、エスマットは携帯電話で使われているLTEに対応した「スマートマットSIM」を開発しました。LTEであれば、Wi-Fiの複雑な設定や接続数の限界を気にする必要がなく、届いたその日から電池を入れて使い始められるうえ、接続もより安定します。多拠点での遠隔監視にもスムーズに対応可能です。

このスマートマットSIMには、SORACOMのデータ通信サービスSORACOM Airが採用されました。導入の決め手は2つ。1つは、通信制御やAPI連携がしやすいことです。これにより、例えば倉庫に入荷した在庫データをもとに外部システムのステータスを自動変更するなど、お客様にとってさらに使いやすいサービスを実現できるようになりました。

もう1つの決め手は、世界中の国や地域で通信が可能なプランがあることです。ハードウェアの製造にあたっては、通常は各国の通信方式に合わせて、展開する国の数だけモデルを持つ必要があります。しかし、SORACOMのデータ通信を行うためのSIMカードは世界中で使用でき、1つのモデルのみで世界各国向けのハードウェア製造が可能で、自社の在庫リスクを抑えることもできました。

「サービス開発当初からグローバル展開を見据えていた弊社にとって、世界中で使用できる通信サービスは大変魅力的でした。また、ソラコムの掲げる『テクノロジーの民主化』というビジョンにも大きく共感しました。SORACOMの通信サービスは確かに、どんなエンジニアでも通信状況を制御しやすいようにつくられています。私たちも社内のメンバーだけで通信制御の仕組みづくりを行うことができ、大きなメリットを感じました。」(林氏)

さらに、スマートマットで取得したデータをクラウドに送信するにあたっては、データ転送支援サービスSORACOM Beamも使用しています。通信の暗号化とデバイス認証を一元管理し、高いセキュリティ強度を保ちながら、通信料金や電池の使用量を抑えることに成功しています。

今後のサービス展開について

社会全体で「モノの流れ」をスマートにするDXの実現を目指して

エスマットは今後、社会全体で「モノの流れを超スマートに」するDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指しています。「モノを買い、保管し、消費する」というサイクルは、メーカーから卸売業、小売・サービス業、各家庭まで、あらゆる場所で行われ、すべてがエコシステムとしてつながっています。現在は一部の在庫管理に特化したIoTサービスを提供していますが、この仕組みをさらに進化させていくことで、いずれは欲しいときに欲しいだけのモノをスマートに生産・購入できる世界を実現したいと考えています。

また、在庫データが可視化されることで、経営面でも調達・生産・販売計画が変わり、商品開発などにも生かすことが可能だとイメージしています。まずはその先駆けとして、製造業の工程管理効率化に貢献可能なプロダクトを2023年に発表する予定です。

「私たちは『モノの消費』という、これまでにない全く新しいデータを可視化し、取得することに成功しました。このデータがあればこそ、スマートファクトリーをはじめとした、社会全体でモノの流れをスマートにするDXを目指せると考えています。

最終的には、多くの方の生活が変わるようなサービスも提供していきたいです。今、買い物難民の存在なども話題となっていますが、スマートマットを使えば少子高齢化が進む日本社会において、生活必需品を必要なときに届けるサービスも設計可能だと考えています。目指すのは、『必要なときに、必要な分だけモノを生産し、必要な人に購入してもらう』社会です。社会全体で無駄を減らすことで、フードロスの削減などの社会課題の解決にも貢献し、世の中が少しでも良くなることにつながればと思っています。」(林氏)

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