株式会社ソラコムがお送りする「IoT速報-ビジネスの最前線-」。今回は、医療材料の在庫管理・補充業務をIoTで効率化する、帝人フロンティア株式会社の「RecoFinder(レコファインダー)※」をご紹介します。

【この記事でわかること】
・帝人フロンティア株式会社が開発・販売する「RecoFinder」は、RFIDを利用し、これまで手作業で行っていた医療材料の集計や補充などの在庫管理を効率化
・医療材料に専用カード型タグを添付。使用後にタグを専用機器に投函するだけで、消費個数をカウントし、クラウドにも同時連携。スピーディーな発注も可能に
・「RecoFinder」は医療機関の他、医療材料物流センターでも業務効率化に貢献

【SORACOM活用のポイント】
・個人情報を扱う医療機関ではインターネット利用は厳しく制限。機器からクラウドに在庫情報を送る通信のセキュリティをSORACOMで担保
・部屋や立地によって通信状況の良いキャリアが変わるという、医療機関ならではの環境下において、SORACOMを用いることで、その場に最適な通信キャリアを選択可能に
・RFID読み取り機器で独立したLTE通信を叶えたことで、医療機関のランサムウェア感染時におけるリスク分散を実現

■導入の背景

RFIDを物品管理で活用。帝人の新規事業から生まれた「RecoFinder」

今回取り上げる「RecoFinder」は、医療機関における機器、器具、医薬品など医療材料の在庫管理問題を解決するためにつくられた製品です。2023年4月より、同製品の開発・販売は帝人フロンティア株式会社(以下、帝人フロンティア)が手がけていますが、もともとは親会社である帝人株式会社(以下、帝人)の新規事業の中で生み出されたものでした。

マテリアル、ヘルスケア、ITなど、幅広い領域でグローバルに事業を展開する大手化学メーカーの帝人では、2000年代後半から「RFID(Radio Frequency Identification、ID情報を埋め込んだICタグのデータを、電波を用いて非接触で読み書きする技術)」を中核技術とした新規事業に取り組んできました。その中で自社開発の電波の通過を防ぐ「電磁波シールド」という素材を使い、物品の出入りやロケーションの管理を正確かつ効率的に行える物品管理システム「RecoPick(レコピック)※」を開発。

その後、医療業界向けにも展開するために2019年に誕生したのが、UHF帯という電波のICタグを用いた通過検知システム「RecoFinder」でした。

バーコードによる医療材料の在庫管理をRFIDで代替

「RecoFinder」は、医療機関がこれまで行ってきた在庫管理の仕組みに即しながら、その一部をRFIDに代替させる形で開発されました。

従来、医療機関における医療材料の在庫管理は、専用のバーコードを用いて行われてきました。滅菌ガーゼなどのパッケージに、製品名や品番、請求個数、定価を記載したバーコードを添付。医療従事者は、物品を使うたびにバーコードを剥がして所定の箱に投函します。それを医療材料物流センターのスタッフが回収し、手作業で1枚ずつ読み取ることで、数が減った分の在庫補充や、請求情報に結び付けていました。

しかし、1日に膨大な量が消費されるため、バーコードの読み取り漏れといったヒューマンエラーが発生します。そこで「RecoFinder」では、バーコードをRFIDに代替。物品使用後、ICタグが埋め込まれたカードを剥がして専用機器に投函するだけで、消費個数を一気にカウントできるシステムを構築しました。さらに、消費情報をクラウドに送り、物流センターにもリアルタイムに連携。これまでの人によるアナログ作業が、大幅に削減できました。

RFIDリーダーの通信において立ちはだかった大きな壁

「RecoFinder」の機器からクラウドに情報を送るための通信には、大きな壁が立ちはだかりました。当初、病院内のネットワークを使う前提で、試験運用を重ねていましたが、医療機関は個人情報を扱うため、インターネットの利用は厳しく制限されています。特に院内の情報を外部に送る通信は、医療機関の情報システム部門に何枚もの書類提出が必要な上、厳しい審査を経ても、必ずしも許可が下りるとは限りません。

セキュリティを担保しながらも、「RecoFinder」の読み取り機器単体で通信可能な仕組みをつくれないものか。そのように考えた時にたどり着いたのが、SORACOMの通信でした。

■実現したサービス

SORACOMの通信で設置場所に最適なキャリアを選び、LTE通信を実現

 

「RecoFinder」では、RFIDの読み取り機器にSORACOMの通信を内蔵しています。SORACOMのセルラー通信は認証されたネットワークを利用できるため、医療機関のネットワークに頼らない、独立したLTE通信です。これにより、複雑な設置業務は不要で、機器を必要な場所に置いて電源を入れるだけで通信できるようになりました。

開発プロジェクトに携わった、帝人フロンティア 新事業推進本部 スマートセンシング部 第2ソリューションチームリーダーの阿磨 由美子氏は、SORACOMの通信を採用した理由について、このように語ります。

「通信キャリアをその都度自由に選べる点が、導入の大きな決め手になりました。病院は、さまざまな医療機器の関係で、部屋によって電波の状況が大きく変わります。医療材料の倉庫は地下にあることも多く、地域によっても電波状況の良い通信キャリアが異なります。部屋や病院ごとに回線をいちいち契約し直すのは手間ですから、1枚のSIMカードで自由にキャリアを選べるSORACOMの通信は本当にありがたい製品でした」(阿磨氏)

独立した通信の利用は、医療機関のシステムがランサムウェアに感染した際のリスク分散にもつながりました。万が一の場合にも、「RecoFinder」の通信は医療機関のネットワーク外にあり影響を受けないため、「必要な物品がないために医療が提供できない」という事態を防げるのです。

■今後の展開

医療材料物流センターでも業務効率化に貢献。今後も「電波制御技術×IoT」で多様な製品を展開したい

「RecoFinder」は、医療材料物流センターの業務効率化にも大きく貢献しています。バーコードで在庫管理を行っていた時は、決まった回収時間にしか医療機関の在庫状況を把握できないため、不足している材料を翌日納品するために遅くまで残業することもありました。しかし、「RecoFinder」の導入で、スタッフは担当する医療機関の使用状況をいつでもリアルタイムに把握できます。そのため、すぐに必要な物品の準備を行うことができ、残業時間削減にもつながっています。

帝人フロンティアは今後も強みである「電波制御の技術」をさらに応用し、医療機関向けの新製品や、他業界でも活用可能な製品を展開していきたいと考えています。

「『RecoFinder』の導入先を増やすのはもちろん、IoTを通じた医療業界へのさらなる貢献を目指して、今後もさまざまな可能性を検討していきたいです。現在、ある病院とともに、手術室で使用した資材のカウントと記録が可能な、IoTゴミ箱の開発を進めています。手術時に使用した資材数のカウントは、患者さんへの費用請求などを行う上で必要なのですが、現状は物流担当者がゴミ箱の中身を1つひとつ数えて対応しています。ここを効率化できればと、研究・検証を進めています。

また、『RecoFinder』を含むRFID管理システムのRecoシリーズは今後、医療業界以外にも物流や工場、アパレルのリサイクルといった領域でも、より活用していただければと考えています。SDGsの領域にも貢献可能なRecoシリーズを目指して、今後も検討を進めていきたいと思います」(阿磨氏)

※「RecoPick」および「RecoFinder」は帝人フロンティア株式会社の登録商標です

帝人フロンティア株式会社

帝人フロンティア株式会社

新事業推進本部 スマートセンシング部 ソリューション営業第ニ課
課長 阿磨 由美子氏

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