【この記事でわかること】
・「あのね」は、セコムとDeNAが共同開発・運営するコミュニケーションサービス。
・一人暮らしの高齢者の孤独を解消するため開発され、小型のロボットを介して、コミュニケーターや離れて暮らす家族とリアルな日常会話を交わせる。
・孤独は高齢者だけの問題ではない。さまざまな世代にも利用してもらえるようサービスを拡充しており、将来的にはプラットフォーム化を目指す。

【SORACOM活用のポイント】
・ロボット本体にSORACOM IoT SIMが内蔵されているため、電源を入れるだけで通信が可能になり、ネットワークの敷設や設定作業は不要。
・届いてすぐに使い始められるため、高齢者の利用障壁を下げられた。

導入背景

750万人の独居高齢者の会話を促す

セコムとDeNAが共同で運営するコミュニケーションサービス「あのね」は、高齢者向けのコミュニケーションサービスとして2023年4月にスタートしました。

ユカイ工学のコミュニケーションロボット「BOCCO emo(ボッコエモ)」を介して、「おはようございます」から、服薬や予定のリマインド、趣味の話、クイズを使った雑談や「おやすみなさい」まで、24時間365日、コミュニケーターと個別で音声メッセージをやり取りし、会話を楽しむことができます。

「あのね」の起源は、2015年4月にセコムが開設した地域のくらしの相談窓口「セコム暮らしのパートナー久我山」にまでさかのぼります。万が一の時に駆けつけるホームセキュリティサービスを提供しているセコムは、超高齢社会によるひずみを実感していたと言います。

「親族が独居の高齢者の異変を察知して駆けつけ要請をされることも多いのですが、到着してみると食事も摂れておらず部屋も散らかっている状態など、深刻な問題を抱えている一人暮らしの高齢者の多さに直面しました。

従来のホームセキュリティサービスは世の中に安全・安心をお届けしている一方、駆け付けるときはすでに異常事態が起きているため、日常のお困りごとに接することは多くありません。日常の接点を増やしてご高齢者が抱える課題の解決ができないだろうかとの考えが、『セコム暮らしのパートナー久我山』の起点となりました」(セコム株式会社SMARTプロジェクト 担当課長の河村雄一郎氏)

そこで、世代をまたいだ地域住民への聞き取り調査を開始。その結果、1.ワンストップで何でも受け止めてくれる相談窓口、2.些細なことでも気軽に頼むことができる、この2点を満たすサービスへの需要が高いことが分かりました。

草むしりや電球交換、介護保険の申請のお手伝いなど約1万件にものぼるサポート活動を経て、2016年に月額制サービス「セコム・マイホームコンシェルジュ」として本格スタートしました。訪問や電話でのサポートが増えるなか、困りごとの解消よりも“おしゃべり”をすることへの満足度が非常に高いことが分かったといいます。

社会課題の引き金になる「孤独・孤立」を解決したい

推計によると、65歳以上の独居高齢者数は、2025年には750万人に上ると言われています。(内閣府「令和4年版 高齢社会白書」)。一人暮らしでは日常の会話が少なくなってしまい、QOL(生活の質)低下につながることが指摘されています。

「内閣府のデータによると、独居高齢者のうち約2人に1人が、2~3日に1回以下しか会話をしないということが分かり、我々も驚きました。会話が少ないこと、つまり孤独や孤立状態は身体や認知機能低下の原因となり得ますし、健康悪化にもつながります。

ほかにも、孤独や孤立により特殊詐欺に騙されやすくなるなど、さまざまな社会課題の引き金となり、高齢者を支える周囲の負担も大きくなります。そこで、IoTを活用したコミュニケーションサービスを開発しようと、試行錯誤が始まりました」(河村氏)

当初はAIスピーカーなども検討しましたが、スピーカーを声だけで起動させるためには特定のかけ声が必要だったり、一定時間内にクリアな発話を求められたりと高齢者への導入ハードルが高く見送ることに。

複数のコミュニケーションロボットのなかから、小さな子供から高齢者まで操作可能なユカイ工学のロボット「BOCCO(ボッコ)」が選ばれました(※「あのね」で使われているモデルは、BOCCO emo(ボッコエモ))。

実証実験(PoC)には約400人が協力。継続利用を希望される協力者には料金が発生するトライアルというかたちで利用してもらいました。

「期間限定の無償トライアルの予定だったのですが、BOCCOを引き揚げようとしたら『お金を払うから置いていってほしい』という声も多く有料化しました。PoCは社会実装を目的としているので、有料化できたことで人とのつながりがサービスになるという自信を得ました」(河村氏)

PoC段階で、「この子が話しかけてくれることで、元気になった気がする」と生活のハリを実感する人が多かったため本格的なサービス開発に乗り出し、22年にDeNAとの共創で「あのね」が本格始動します。

株式会社ディー・エヌ・エー ソリューション事業本部エンタープライズ事業部 事業部長の吉田航太朗氏は、「PoC段階で料金が発生しているということからも、このサービスの価値の高さを解像度高く感じ取ることができました」と話します。
コミュニケーターとのやり取り以外にも、離れて暮らす家族の見守り機能も搭載することにしました。

「あのね」のサービスを成功させるには、なるべくリアルタイムでのテキストや音声の送受信が可能で、かつ高齢者がネットワーク設定に腐心せずに済むような仕組みが求められていました。

実現したサービス

電源を入れれば個別メッセージが24時間365日やり取りできる

「あのね」の最大の魅力は、ユーザーの暮らしぶりに合わせてコミュニケーターが個別メッセージを届けてくれること。

起床・就寝や投薬時間、その日の予定や趣味の話題など、カスタマイズした事前の設定情報に合わせて、コミュニケーターがパソコンにテキストを打つとクラウドを経由して、ロボット(BOCCO emo)が読み上げてくれます。

それに対してユーザーが返答する場合は、ロボット側のボタンを押して話すだけ。音声メッセージもクラウド経由でコミュニケーターに届きます。ほかにも、離れて暮らす親族などがスマホアプリでロボットとユーザーとのやり取りを確認したり、アプリから音声メッセージの送受信も可能。

特筆すべき点は、24時間365日必ず返答してくれるということです。現在は、DeNA内のカスタマーサポートセンター拠点のスタッフが対応しています。

これらすべての通信には、ロボットに搭載されたSORACOM IoT SIMによるセルラー通信が使用されているため、ユーザー側でWi-Fiにつなぐといった設定は必要ありません。

想定ターゲットである高齢者にとって、コンセントにつなぐだけでロボットとのコミュニケーションが始められるため、導入障壁を下げることにもつながりました。

また、サービス提供側にとっては、SORACOMではユーザーコンソールやシステムに連動できるAPIから回線管理を実施できるので、ユーザーが増えてもユーザーと通信を管理しやすい設計になっています。

「セコムの他サービスでもSORACOMを活用しており、使い勝手の良さは実感していました。資料が豊富であるうえに、サポートもユーザー目線でフレキシブルに対応していただけるので、とても頼もしいです」(河村氏)

今後のサービス展開について

さまざまな世代の孤独解消に向けてプラットフォーム化を目指す

河村氏、吉田氏ともに「あのね」の拡張性を指摘します。

「孤立にまつわる社会課題は高齢者に限ったことではありません。さまざまな世代でサービス利用が広がっていってほしいと考えています。実際に、すでに現役世代の方や共働き世帯のお子さまなど、高齢者以外の世代によるご利用も始まっています。

ロボットの裏側で人とつながっているという安心感がサービスを支えているので、今後もヒューマンタッチは欠かせません。広く利用されるためにプラットフォーム化を目指したいので、コミュニケーター側に参加してくれる方も増やしていくなど、社会全体を巻き込めるようなサービスにしていきたいです」(河村氏)

「現在、コミュニケーターはDeNAのカスタマーサポートのスタッフが担当しています。雑談という関わり方は新しいチャレンジです。それぞれが、例えば一言、二言を加えるなどで充実したコミュニケーションを目指して工夫しています。

将来的にはユーザー同士がコミュニケーションをするというような拡張性もあるかもしれません。また、ロボット自体がインターフェースとして活躍できるので、外部サービスをアドオンするなどしてより幅広いサービスを提供していければと考えています」(吉田氏)

 

セコム株式会社
株式会社ディー・エヌ・エー

セコム株式会社
株式会社ディー・エヌ・エー

セコム株式会社SMARTプロジェクト担当課長
河村雄一郎氏
株式会社ディー・エヌ・エー ソリューション事業本部エンタープライズ事業部長
吉田航太朗氏

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