化学プラントを有する淀川製作所。分電盤の発熱が安全管理上のリスクに

グローバル総合空調メーカーのダイキン工業株式会社(以下、ダイキン工業)は、全社をあげてIoTの活用を進めています。その一環として、大阪府にある同社の淀川製作所では、電気設備の安全管理の徹底および人員不足の解決に向けて、IoTシステムの活用に着手しました。

今回は、IoTシステムの開発に携わり、淀川製作所で勤務されているテクノロジー・イノベーションセンターのみなさまに、SORACOMのサービスを活用したIoTシステムがどのように課題解決に貢献したか、お話を伺いました。

【この記事でわかること】
・大規模な化学プラントを有する工場であり、かつ周囲が住宅街であるため特に火災リスクに対する安全管理の徹底が求められる。
・分電盤定期点検時の人による品質のばらつきを防ぎ、かつ安全性も高めるため、自社独自でIoTを導入。
・しかし、システムのセキュリティ対策やメンテナンスコスト、構築時間などが課題に。
・SORACOMを導入した結果、導入コストが半減し、運用も効率化できた。

【SORACOM活用のポイント】
・IoTSIMを用いて接続先のシステムにデータ送信。コンソールだけではなく、API経由での回線管理が可能に
・パブリッククラウドのFaaS機能(ファンクションサービス)を呼び出しデバイス側の負荷を軽く
・デバイスから得たデータをサーバーの準備なく、収集・蓄積

導入の背景

火災リスクに備えた安全対策が欠かせない

淀川製作所はダイキン工業のなかで唯一、化学事業部がある工場で、化学、油機、空調、特機、テクノロジー・イノベーションセンターといった5つの部門がまとまっています。また、製作所の周囲が住宅街に囲まれている影響も考慮して火災リスクに備えた安全対策に対する気配りは欠かせません。

工場内に設置されている分電盤は特に負荷がかかりやすく、安全確認には細心の注意が必要となり、品質にばらつきのない高頻度の点検が求められていました。

解決したい課題

自社IoTシステムの構築では、セキュリティや運用コスト・工数に課題

IoT導入以前は、淀川製作所の分電盤の安全確認は目視による定期点検を実施していました。しかし、今後、監視すべき分電盤の数は変わらないもしくは増加する傾向にあるが、日本全体の課題でもある働き手の減少による人手不足や熟練した作業者の引退により、理想的な点検頻度が維持できなかったり、担当者の経験によって点検の質にばらつきが出てしまったりなど、同社が目指す安全管理体制の維持向上を実現するためには課題があったといいます。点検している様子そこで、常時監視ができ、かつ人の判断のみに依存しない分電盤監視システムを構築すべく、2019年にIoT化プロジェクトが始動。2020年までは、自社でイチからシステムを開発し、運用していました。
自社システムは、温度計測用サーモセンサーを分電盤に設置し、小型シングルボードコンピューター「Raspberry Pi(ラズパイ)」経由でAmazonのクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」にデータ連携させるというものでした。

 

システム開発者の松園泰典氏(以下、松園氏)は、「IoTシステムを導入したことで、分電盤の温度変化を“点”ではなく“線”で確認できるようになったことは大きな変化だった」と、話します。
松園氏インタビューカット安全面でのリスクから重点的に監視や対策を行うべき分電盤を洗い出し、温度の変化を常時監視しました。そのデータ推移から、たとえば温度上昇を抑えるためにファンの位置を変更するなど、安全上の問題が発生する前に必要な対策を早期に講じることができるようになったといいます。

ところが、いざシステムの運用を始めると、センサーの導入数が増えるにつれてメンテナンスやセキュリティ担保のためのシステム構築にかかる人的・時間的コストも増加していくという問題点も浮き彫りになりました。システム導入により作業を効率化するはずが、システム活用にかかる作業量が増大したことでかえって業務効率が低下する、というジレンマに陥ってしまったのです。

そこで、IoTシステムを製造現場でより効率的に運用するために、2021年にIoTプラットフォームSORACOMの導入を決めました。

実現したサービス概要

SORACOM活用で、スピーディーに分電盤の安全監視システムを導入。運用コストの大幅減にも成功

SORACOMの導入開始からたった1年間で、製作所内で常時監視が必要とされる分電盤300面のうち、その半数以上のIoTシステム化が完了しました。松園氏は、SORACOMの導入によるスピード感を実感したといいます。

「SORACOMを活用した新システムの開発は半年ほどの期間を要しましたが、導入に際して大きな課題はなく、SORACOMの各種サービスと、もともと導入していたAWSとの相性の良さから、開発はスムーズに進みました」(松園氏)

SORACOMの利用で、サーモセンサーとAWS間のデータ送信システム構成のテンプレート化にも成功し、今後、まだIoT化されていない分電盤に導入する際も迅速かつ効率的な実行が可能に。導入にかかる期間や人的コストも約半減しました。

ITインフラ管理者の角田潤也氏(以下、角田氏)は、本システムのITインフラ面のサポートを行うなかで、高い安全性も担保しつつAWSのファンクションサービスに直接連携できることで、システムをシンプルに構築できメンテナンス効率もぐんとアップするという魅力を感じた、と語ります。

「IoTシステムを構築するうえで、重視したのはAWSとの連携のしやすさです。SORACOMの各サービスはAWSとの連携がスムーズで、管理画面のデザインも使いやすいと感じたので、導入を決定しました。また、API連携により、システムを自動化できる点も魅力的でしたね」(角田氏)角田氏

SORACOM活用について

開発の手間を省いてシステムの安全性も向上

今回、ダイキン工業ではラズパイにSORACOM IoT SIMを内蔵したデータ通信端末を取り付け、SORACOMを経由する際に、AWSに接続するために必要な認証を付与して送信するというシステムを構築しました。これにより開発の手間を省き、システムの安全性も向上しました。

SORACOMを使用しないでデバイスとAWSなどのパブリッククラウドとを直接つなぐ場合、デバイスごとにAWSの認証情報を登録する必要があり、PoC(実証実験)から本番環境に移行したり、パブリッククラウドを変更したりなど、仕様変更時にはすべてのデバイスについて現地での設定作業が必要となり、管理が大変です。SORACOMを利用することで、これらの設定作業をクラウドから遠隔で行えるようになり、仕様変更のハードルが大きく下がります。

今回の事例のように大量のデバイスを扱う場合は特に、デバイス側の登録情報を少なくして負荷を軽くしておくと、管理コストを省くことができます。SORACOMを経由すれば、SIMの個別情報をもとに管理画面上でAPIと連携してデバイスを一元管理できるため、逐一認証情報を登録する必要がなくなります。

デバイスは取得したデータをSORACOMに送信するだけで、あとは管理画面上でパブリッククラウドのファンクションサービスに自動で連携したりデータ送信先を選択したりできるため、開発から本番稼働までの流れがシンプルになるのです。管理画面上からは連携先のサービス、さらにはパブリッククラウド自体を変更することも可能です。

またセキュリティ面でも、デバイスとパブリッククラウドとの依存関係(直接接続)を避けることで、万が一の盗難や紛失でクラウドの認証情報が漏洩することが防げて安全性も高まります。

今後のサービス展開について

分電盤のIoT導入をさらに進め、安全管理の質を向上。他工場への展開や新たなIoTシステム構築も視野に

ダイキン工業淀川製作所全体画像松園泰典氏は、「いま、ダイキン工業では全社的にIoTの活用を進めており、淀川製作所のIoT電気設備安全管理システムをモデルケースにしたいと考えています。システムのテンプレ化に成功したので、ほかの工場にもノウハウを共有したいと考えています」と語ります。

淀川製作所内でまだIoT化できていない分電盤にも、すでに取得済みの温度データを参考にIoTシステムを順次導入していく予定とのこと。

「自動化はゴールではなく、安全管理の質を高めるための手段です。IoT化で取得できたデータをもとに人が判断して改善していく、というサイクルを構築することで、”常に安全である”という状態を維持・向上していけると考えています。新技術が登場すれば、積極的に活用して、安全管理の質を向上させ続けたいです」(松園氏)
松園氏また、松園氏は総合的なコストパフォーマンスの面から、すべてを自社で開発するのではなく、プラットフォームを用いて効率的にIoT化をすすめることも検討するべきだとも指摘します。

「企業が初めて効率化を狙ってIoT化に取り組む場合、我々がそうであったようにすべてを自社システムで構築すると、反対に運用コストが増大することがあるかもしれません。

そこで、IoTシステム導入時には運用コストの部分にも着目し、適切なプラットフォームも活用することで、開発・運用にかかる時間を削減し、そのシステムがもたらす価値を最大化することが大切です」(松園氏)

角田氏は、分電盤の事例からSORACOMによる実装スピード向上に強い魅力を感じ、今後は他のIoTテーマでもSORACOMを積極的に活用し、より速い開発サイクルで社内に展開していきたい、と語ります。

角田氏

「私はITインフラ関連の仕事をしており、社内のクラウド利用者からの技術相談などをよく受けるのですが、『現場のシステムをIoT化し、データをクラウドに集約して、データベースを構築し、見える化などを実現したいが、考慮すべき点が多すぎて難しい』という内容が多いです。IoTデータはフォーマットもさまざまで、分析可能なデータベース化までに手間がかかる、というのです。

今回、弊社はSORACOMを活用して効率的な運用が実現できたおかげで、そのような細かな課題にも対応できるテンプレートや手順書といった成果物をまとめることができました。さらに、これらの成果物を汎用化した形で再度まとめなおし、社内Wikiにて公開しています。これを基に素早い横展開を進めていく予定です。

また、IoTプロジェクトの立ち上げから検証までが早くなったことで、IoT化に向けた技術の検討にかかる期間や人手が最小限になり、より価値の検証に注力できるようになったことも大きいですね。今後も、価値の創出に時間が割けるようなシステム構築を手がけていきます」(角田氏)
走るポーズをとる松園氏と角田氏

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