IoT 導入の背景

家庭に眠る外貨コインを流通させ、新たな市場を作る

ポケットチェンジは、海外旅行の際に余った外貨を、希望の電子マネーや、各種ギフトコード、クーポン等に両替できるサービスです。空港や駅、繁華街にある商業施設などに、緑色の無人外貨交換機を設置し、お客様は海外旅行・出張から戻ってきたときに手元に残ってしまった外貨紙幣やコインをこの外貨交換機に入れるだけで、希望する電子マネー、例えば交通系 IC カード、楽天 Edy、Amazon ギフト券、WAON、nanaco などの電子マネー・ポイントに交換することができます。現在、日本円、米ドル、ユーロ、中国元他10カ国の通貨に対応しています。

このビジネスアイディアは、創業者のひとりが感じていた煩わしさから始まりました。海外旅行や出張で余った端数の外貨は、たいてい家庭のクローゼットにしまわれ忘れ去られてしまいます。一度国を離れれば価値が眠ってしまう外貨を、デジタル上で交換することでそのお金として価値を再び使えるようにしよう、そんなシンプルなアイディアからサービス開発が始まりました。

IoT 導入の課題

ウェブアプリケーション技術チームの自社開発ハードウェアへの挑戦

サービス開発開始の 2015 年当時、開発チームにはウェブアプリケーションの技術者しかいませんでした。様々な場所でこのサービスをお客様にご利用いただくためには、無人外貨交換機というハードウェアが必要と考え、チームの挑戦が始まりました。

アプリケーション部分は幸い電子マネーアプリなどの経験者がいたことでスムーズに進みましたが、外貨交換機の開発はチームにとって初体験でした。複数の種類の外貨を交換可能にするという仕様だけではなく、外貨交換機はお客様とサービスをつなぐ窓口となるため、使いやすさや気持ちよさといったお客様の利用体験を重要視しました。DIY ショップで購入した木の板で枠組みをつくり、外貨収集のための内部構造を発案、3D プリンタで部品を作るなど、試行錯誤を重ね、外貨交換機の 1 号機が完成しました。

フィールドテストを経て、空港や商業施設に無人外貨交換機を設置が始まりました。設置が始まるとともに、通信ネットワークの確保の課題に直面します。

SORACOMが選ばれた理由

運用面でも活用!SORACOM Beam でデータ通信量 3 割減を実現

スタートアップでも必要な通信の回線数をオンラインショップで契約・購入することができ、クレジットカード決裁で振込など経理の手間がかからないということから SORACOM を採用しました。外貨交換機に SORACOM の通信を内蔵し、利用履歴や、内部のプリンタの稼働状況、コイン集計機のログなど様々なデータを収集しています。

実際に全国各地に外貨交換機が拡がるにつれ、運用面での改善も進んでいます。

「当初外貨交換機とサーバーの通信は独自に TLS/SSL トンネリングによる暗号化を実施していました。これを SORACOM Beam を利用して SORACOM 側で暗号化をする仕組みに改善したことで、セルラー通信区間の上りデータ量は 3 割減となり、運用コスト削減につながりました。」(井桁氏)

ポケットチェンジは、お客様の要望を受け、そして継続的な運用の自動化にむけて進化しています。SORACOM の通信を介して、遠隔からソフトウェア・アップデートを配信することで、既存の外貨交換機にも新機能追加を実現しています。その間隔は、ほぼ毎週。

「こういった頻繁な新機能追加などを含むウェブアプリケーション開発のアプローチは、ハードウェアが含むサービスでも通信を介して実施可能だと感じています。」(一井氏)

システム構成図

導入の効果

全国 60 ヶ所に設置、累計 50 万件の利用。サービス拡大で運用体制も進化

2015 年に「ポケットチェンジ」はサービスを提供開始し、今や累計ご利用件数 は 50 万件を超えました。空港をはじめ、駅や商業施設など全国各地で 60 ヶ所以上* に設置され、端末の設置場所は続々追加されています。*数字は 2019 年 12 月現在

設置場所の多様化に合わせて、NTT ドコモのネットワークが使える plan-D と KDDI ネットワークが使える plan-K を使い分けています。SORACOM なら異なるキャリアの SIM も同じグループに入れて管理・システム連携することが可能です。

外貨交換機の安定稼働のための取り組みにも SORACOM を使い始めています。ポケットチェンジのサービス利用を拡大していくには、将来的に運用の無人化が不可欠です。アプリ層、ネットワーク層など複数のレイヤーでエラーを監視しながら、通信エラーなどは SORACOM の API を用いて簡単な操作だけでセッション再接続などの操作ができるようにしています。また、トラブル対応やメンテナンスが必要な場合は、SORACOM Napter を利用し東京の本社から必要な時間だけ直接デバイスにアクセス、アプリのスクリーンショットを撮影したり、再起動するなどメンテナンスを実施しています。

今後の展開について

次の挑戦の舞台は地域通貨、デジタル x 通貨を軸に新しい体験を創る

「ハードウェアを含むサービスは苦労もありますが、実際に見て、使ってみたお客様様から「便利」「楽しい」というフィードバックが聞けることは、それ以上の喜びややりがいを感じます。」(井桁氏)

技術的な観点では、長期的な運用コストの最適化のために、SORACOM Junction を利用してネットワークトラフィックのログを収集、何の通信量が多くなっているかを調査・把握することを検討しているという井桁氏。サービスの安定運用に向けた改善はさらに続きます。

「私達にとっては IoT とは Internet of 通貨。今後も「現金の煩わしさから人々を開放する」をミッションに掲げ、新しい取り組みも展開していきます。」(一井氏)

そのひとつが、電子マネープラットフォーム 「ポケペイ」。事業者の地域通貨などを作ることができるサービスで、すでに宮城県塩竈市での実証実験が始まっています。ここでも外貨交換サービス開発で得た知見が活きていると一井氏は言います。ポケットチェンジ社の、デジタル x 通貨を軸に新しい体験・新しいつながりを創る挑戦は、次の舞台を見据えて動き出しています。

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