IoT導入の背景/課題

新規事業の立ち上げと、現場力向上を起点にしたアイディア

住友ゴム工業株式会社は、タイヤ事業、スポーツ事業、産業品事業をグローバルに展開する総合ゴム製品メーカーです。中でもタイヤ事業では、DUNLOP(ダンロップ)・FALKEN(ファルケン)をメインブランドに、乗用車用、トラック・バス用、産業車両用など、さまざまなシーンで活躍するタイヤをグローバル展開しています。

オートモーティブ業界は、新たなモビリティ、MaaS、シェアカー、メンテナンスフリー、電動化や自動運転、AIによる分析などテクノロジーを活用した著しい進化の渦中にあります。これらの技術潮流を踏まえ、タイヤ事業での新規事業を検討すべく、社内公募を含めた有志のメンバーが集うチームが結成されました。

新規事業の立ち上げにあたり、チームが注目したのが「現場力の向上」というキーワードでした。タイヤ事業では、工場での大型設備を用いた製造、お客さまの接点となる営業・販売ネットワーク、販売後のメンテナンスネットワークまで様々な現場が関わります。またタイヤのユーザー視点でも、ドライバーを始め、メンテナンスや購買などの担当者などが現場を支えています。現場力において、日々の改善の積み重ねは重要な意味を持ちます。しかし、昨今の労働人口の減少などの社会問題を踏まえると、さらなる現場力向上のためには、突破口が必要だと考えました。

現場が毎日やっていた作業を代替し、ベテランの勘や知見を見える化することができれば、「人手に頼らない現場力の向上」が可能になると考え、メンテナンス管理者が実施する空気圧点検のデジタル化というアイディアを進めることになりました。

パートナーとの協業で、現場視点と技術視点の知見を融合

このような経緯から開発されたのが、タイヤの空気圧や温度をリモート監視する「空気圧・温度管理サービス」です。車にTPMS(タイヤ空気圧管理システム:Tire Pressure Monitoring System)と呼ばれるセンサーを取り付け、車載通信機を経由して、空気圧、温度数値、位置情報等のデータを測定しクラウドに送信しています。お客さまは、パソコンやタブレット、スマートフォンを用いて、リアルタイムでタイヤに関するデータを閲覧できるほか、アラート通知も受信できる仕組みです。

社内でも新規事業、とりわけクラウドや通信を使ったデータ活用については、ほとんど経験がなく初めての取り組みでした。まず、タイヤの空気圧・温度を管理するために必要な構成を洗い出し、展示会やインターネットを通じて情報収集やパートナー探しから着手しました。

センサーやクラウド活用に知見のあるビジネスパートナーを迎え、空気圧管理システムの開発を進めました。住友ゴムはタイヤや現場の作業の視点から、パートナーは技術の視点から、議論を重ねながら課題をひとつずつ解決していきました。

実現したサービス

タイヤの空気圧・温度情報を自動記録、点検作業を軽減

タイヤの空気圧不足はパンクの原因の一つであるとともに、燃費や走行性能の低下にもつながります。そのため、早期の発見と定期的なメンテナンスが必要です。空気圧を適正に管理することは事故を未然に防ぎ、タイヤの寿命を延ばすことにもつながります。

点検作業の軽減という観点では、出庫時、入庫時に人手でおこなっていた、タイヤのバルブのキャップを外し、空気圧を調べ記録するという作業が省略でき、瞬時にパソコンやタブレットで現在状況がわかるようになりました。

本サービスは、よりお客さまのニーズにフィットしたシステムにするために、何十回もの実証実験を重ねてきました。本サービスに関わった寺本氏は、当時の提案について以下のように語ります。
「センサーやクラウドを使ったサービスはお客さまにとっても新しい考え方です。実証実験を通じて実際に作業が軽減される様子や、得られるデータとその利用価値を具体的に数値で示すことで理解を得ることができました。時には、事前に予想していなかった価値を発見することもありました」

走行データを扱うということで、セキュリティ要件にも配慮しました。車載通信機にSORACOMの通信を利用し、空気圧・温度データのクラウドへの送信に用いています。またSORACOMの閉域接続サービスを採用することで、デバイスとAWSクラウド上にある「住友ゴムクラウド」とのデータ連携を、インターネットを経由することなく実現しています。

今後の展開について

データの蓄積から見えた、さらなるデータ活用の可能性

車両リース事業者やレンタカー事業者との実証実験から、目視点検や運転中の違和感からは発見することが難しいスローパンクを、空気圧・温度情報の推移で検知するアルゴリズムを構築、様々なユーザーと組むことで、さらなるデータ活用の可能性に向け動き出しています。

空気圧・温度管理サービスの効果が及ぶのは、メンテナンスの作業だけではありません。お客さまの現場では、空気圧や摩耗のデータを活用し、最後までタイヤを使っていただくことで、限りある資源を無駄なく利用できます。営業の観点では、購買、交換のタイミングでのお付き合いだったお客さまとの接点が増え、適切なタイミングで適切なタイヤを提案できるようになります。また、製造現場では、これらの統計情報から、良い製品を作り続けることが可能になるでしょう。

「ベンチャー企業のようなスピード感はなくとも、大企業にはデータ活用において大きな利点があります。規模が大きいことでデータも集まりやすく、その結果データ活用の効果を得られる人員も多いからです。データを元に、さらに現場力を向上させていきたいですね」と寺本氏は語ります。

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